*この作品は、椎名海桜さんのサイト『Black_Limited(閉鎖しました)』で、2001年3月まで公開されていたものです。


Addicted to you

 

<16:30 新聞部部室にて…坂上 修一>

 

放課後 いつものメンバーを 部室に呼んだ。

全員が揃った所で 僕は ある質問 をしてみた。

 

「皆さん、クリスマスは 誰と過ごしますか?」

 

6人の視線が 僕に グサグサと刺さる。

「い、いや 新聞部のアンケートなん・・・」

「受験生に クリスマスなんて無いわよ」

岩下さんが読んでいた本を 荒々しく閉じた。

「友達とパーティーかな…」

情報誌を見ていた福沢さんは ちょっと不満げに そう言う。

「別に 何もしませんよ」

いつも通りです、と答えたのが 荒井さん。

「ダチと 飲みに行くと思うぜ」

新堂さんは 『あったか〜い』缶コーヒーを カイロ代わりにしながら あっさり答える。

「坂上くんさえ 良ければ、一緒にパーティーでもしたいんだけど」

細田さんは 笑顔で返してきた。

「え゛」

「・・・イヤなのかい・・・?」

細田さんが悪い人じゃないコトはわかっているけど

彼と 2人きりのクリスマスパーティーだけは したくない・・・っ!

・・・・・上手く誤魔化して 断ろう。

「あー、その ちょっとクリスマスには予定があって・・・」

「え!?もしかして 坂上くん、 彼女いるのっ?」

福沢さんが 好奇心に瞳を輝かせて身を乗り出す。

「いや、違・・・」

「彼に限って そんなことはないね!」

僕の代わりに きっぱりと言い切ったのは 風間さん。

うっ。

そんな自信たっぷりに言わなくても。

ま、本当のコトなんですけど・・・しくしくしく。

 

ちょっとヘコんでいる僕に 風間さんが にやり、と笑いかけてくる。

「どうして ハッキリ言わないんだい。

新聞部恒例のクリスマスパーティーがあるんだろ?

学園のアイドルである この僕を誘いたい気持ちは よくわかる、うん。

けど Don't be shy! ハッキリ誘っていいんだよ」

はぁ!?

・・・・・・・・また わけのわからないことを・・・。

「勝手なことを 言わないで下さい。

クリスマスパーティーなんて 聞いてませんよ」

「そりゃ そうだろう。僕が さっき日野から伝言を頼まれたんだから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ちなみに 坂上くんは 絶対参加。

不参加の場合、綺麗にライトアップされた 氷川丸のマストの上にくくりつける ってさ♪」

・・・・・・日野先輩、貴方って人は いつも・・・・。

 

 

<17:00 階段にて…風間 望>

 

クリスマスパーティーの日時と場所を決めて 僕達は解散した。

うーん どんな服を着ていこうかな。うきうき。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

跳ねるように 階段を降りていたら、踊り場に 岩下が立っていた。

「どうしたのさ。 ・・・まさか 僕を待ってた、とか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

う゛。

このオーラは・・・。

怒ってる。

相当 怒っている。

僕を睨むのは いつもの事だけど、この 鈍い光具合は 尋常じゃない。

おなじみのカッターが 飛び出す可能性は高い・・・。

「い、岩下・・・?」

おそるおそる 呼びかける。

すると 彼女は 苦々しく言った。

「よっぽど 【クリスマスパーティー】 が楽しみなのね」

「そりゃ もちろん。・・・あ、もしかして 岩下って、仏教徒だった?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、いいわ」

長い黒髪をなびかせて 彼女は階段を駆け降りていった。

・・・・・・どうしたんだろう?

 

 

<17:15 新聞部部室にて…坂上 修一>

 

福沢さんに手伝ってもらって 部室の掃除を手早く済ます。

「うーん 本当に良かったのかなぁ・・・」

「何の話?」

資料棚を 整えながら 僕は尋ねた。

「岩下先輩と風間先輩の事。高校最後のクリスマスだよ!?

私達なんかと パーティーやって 本当にいいと思う?」

「ああ・・・付き合ってる ってウワサが流れてるみたいだけど・・・」

「…ホンキで言ってんの?」

福沢さんは 持っていた自在ボウキを カターンと倒した。

「どう見たって あの2人は そういう仲じゃん!!」

「“そういう仲”って・・・別に 本人が言ったワケじゃないんだから・・・」

「甘いっ!甘いよ 坂上くん!!・・・・・・・・あ、ところでさぁ 荒井さんの電話番号 知ってる?」

がく。

膝の力が抜けて よろめいた。

どうして そうコロコロ 話を変えられるんだろう・・・。

「・・・・・悪いけど 電話番号も、住所も知らないよ」

「そっか・・・残念」

え?

「どうして 残念なの?」

「・・・んー 深いイミは無いけど。ま パーティーには来るみたいだし」

・・・・・・・・・・・・・・???

頭いっぱいに疑問符を浮かべていると 福沢さんは、笑っていった。

「【好き】になると いろいろ辛いよね」

 

 

<17:30 美術室にて…岩下 明美>

 

「やっぱり ここにいた」

ぐしゃり。

もてあそんでいた 絵の具を握りつぶす。

中から 赤い、赤い ものが流れ出る。

私の手が 赤く、赤く 染まる。

「・・・何が そんなに気にくわないのさ?」

大げさに肩をすくめて 遠くから私を見ている。

「別に。 ・・・イヤな事なんて無いわ」

「じゃ 何がツラい?」

何が 辛い?

何が 痛いの?

「もう 気にしないで。私のワガママなんだから」

赤く染まった指先で 自分の唇に触れる。

「・・・苦い」

 

 

<17:30 校門前にて…福沢 玲子>

 

坂上くんと一緒に帰るつもりだったけど 予定変更。

校門前に 荒井先輩の姿を見つけちゃったから。

ダッシュで 校門まで行くと、ごく自然なフリをして 話しかける。

「偶然ですねー 今、帰るところですか・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

空気が凍る。

はっきりと 私を拒絶する態度。

背筋に 冷たいものが走った。

荒井先輩の視線が 私の心の何処かを壊していく。

ごめんなさい。ごめんなさい。

けど その言葉は まだ口にしたくないから、かわりに 頭を深く下げる。

「福沢さん?」

「荒井先輩が・・・私の事、苦手 っていうか良く思ってないことは わかってます。

わかってて 話しかけてるんです。

嫌がれても 無視されても・・・どれだけ 傷ついても 先輩の側にいたいんです。

これは 私の ワガママなんです・・・」

自分で決めたことなのに。

何が辛い?

何が痛いの?

 

 

<18:00 美術室にて…岩下 明美>

 

黒 青 橙 白 黄・・・。

次々と 私の手が染まっていく。

残った 絵の具は あと1本。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

あいつは あれから ずっと黙ったまま。

傍から見たら 奇行としか写らない 私の行動を見守っている。

最後の1本。

この色を 握りつぶせたら、私は 解放されるかもしれない。

指を ゆっくりと伸ばす。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ふっと あいつの表情を 見る。

「なに?」

にっこりと 笑っている。

「最悪・・・」

最後の絵の具を 掴みとって、投げつける。

「受験もあるし、 読み終わってない本だって たくさんあるのに」

「・・・・・?」

「どうして あんたの為に 寝る時間を割いてやんなきゃなんないのよ。

どうして 毎日毎日 あんたの顔を見る為だけに 学校に来なきゃなんないのよ」

頭が痛い。

耳鳴りがする。

理由がわからない。

なんで 私が こんなに苦しまなきゃなんないのよ。

「・・・・・岩下?」

「最悪・・・っっ!!」

 

私は 冷たい床に崩れ落ちた。

 

 

<18:00 校門前にて…荒井 昭二>

 

うつむかれた頭を ぽんぽん、と 撫でる。

本当に 困った人ですね、 あなたは。

「これが岩下先輩だったら 良かったんですけど」

「・・・・・・・・・っっ」

ふと 漏らした言葉に びくっと身体をふるわせた。

・・・・ああ、ちょっと言葉が 足りませんでしたね。

「誤解しないで下さい。別に 先輩が好みという訳ではないです」

「ど、ういう・・・?」

彼女は 目元を拭ってから 顔をあげる。

ちょっと情けない表情をしている。

僕にしては 珍しいことだが、自然と 笑みが こぼれた。

「あなたは 僕と関わらない方がいいと思います」

あなたのように 純粋な人は 特に・・・。

「そんなの・・・っっ!!」

「僕のワガママなんですよ・・・僕は あなたを傷つけたくないから」

それでも いいなら・・・ どうぞ ご自由に。

 

 

<18:30 昇降口にて…坂上 修一>

 

昇降口で靴を履きかえていたら 日野先輩が現れた。

「よォ!進路の事で 担任から呼び出されてさ。

今の今まで ずーっと面談だよ。あ、パーティーのこと 風間から聞いたか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

思いっきり ジト目で 見てやる・・・。

「くくく。そんなに 嬉しがってくれると 考えた甲斐があるな」

わかっている・・・。

いいかげん 僕だって もう わかっている。

この人は 全てを理解した上で こういう行動に出るんだ。

深いタメ息を つく。

何度 幸せが逃げていったことだろう・・・。

 

 

外に出ると 冷たい風が身に染みる。

うう、寒い 寒い。

「そういや さっき風間と会ったんだけど、全身 緑色になってたぞ。

絵の具 ぶっかけ大会かなんか やったのか?」

「やるわけないでしょう・・・」

「ま、あいつのことだから 気にはしないけど。

・・・・・って オイオイ。マジかよ」

先輩が 空を見上げる。

つられて 僕も見上げる。

ちらほらと 落ちてくる白い物。

「雪だ」

「そりゃ 寒いはずだぜ。坂上が マトモに働いたからだな」

「・・・・・それは 珍しいって 言いたいんですね?」

「正解。褒美として オレに肉まんを奢る権利をやろう」

「いりませんっ!」

 

・・・・・・・・僕は 平穏なクリスマスが訪れることを祈る・・・・。



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