*この作品は、椎名海桜さんのサイト『Black_Limited(閉鎖しました)』で、2001年3月まで公開されていたものです。


その後の、その後のその後の学校であった怖い話

 

STORY 1:細田 友晴
〜 誰にもかわれない。君しかいない 〜

 

3月・・・そう 世間一般では卒業シーズン!!

それに洩れず うちの学校でも卒業式が行われている。

「うぇぇぇん、新堂センパ〜イぃぃぃ」

式が行われている体育館の前で 僕の愛しい…あ、いやいや、こほん。

福沢さんが 声をあげて泣きじゃくっている。

周りを取り囲む2人の友達も 手に終えないようで立ちつくすのみだ。

「悪いけど ちょっと席を外してくれるかな?」

頼み込んで福沢さんの友人に席を外してもらう。

これで邪魔者は いない。

「わぁぁぁぁん、どうして2年早く産まれなかったの〜ぉぉ」

友達がいなくなったことはもちろん、僕が現れた事にも気がついていないようだ。

「・・・福沢さん?」

「わぁぁぁん、おかーさんのばかーっ!!」

「ね、ねぇ・・・福沢さぁん」

「ひっく、ひっく・・・ん・・・?げっ」

ようやく僕の存在に気がついてくれたらしい。

・・・語尾の“げっ”が気にならないこともないけど・・・。

「そんなに泣かないで、ね?」

「あんたなんかに、何がわかるってーのよ!」

泣き腫らした赤い目で僕を睨む。

ああ・・・か、かわいい。

・・・・・おっと、いけない。みとれてる場合じゃなかった。

「わかるよ。来年には、君を残して卒業しなきゃならないんだから・・・」

「・・・論点がずれてない?」

「ずれてないさ。僕には新堂先輩の気持ちがわかる」

「センパイの、気持ち・・・」

高ぶった精神が静まりかけている。

ゆっくりと言い聞かせるように “年上の気持ち” を吐露する。

「せっかく卒業するのに、可愛い君がいつまでも泣いていたんじゃ・・・」

上目使いで見つめる福沢さん。

大きな瞳の中に僕が写っている。・・・やっぱ、可愛い・・・ッッ!!

「おちおちトイレにも入ってられないよ」

「・・・・・・・・・・一生、入ってて下さいッッ!!」

パァァァァン!

 

STORY 2:福沢 玲子
〜 ダ、イ、ス、キ。 〜

卒業証書を手にした3年生が 体育館から出てきた。

その人ごみの中から 見間違える事のない愛しい人・・・新堂センパイを捕捉して

制服のすそをつかむ。

『新堂センパイレーダー』 性能はバツグンねっ!

「センパイっ!」

「福沢か、卒業おめでとう」

「卒業するのは、センパイでしょ?」

「・・・あんま、実感ねぇんだよな」

照れくさそうに、頭をかく。

「カ、カッコいい・・・っっ!!」

「あ?」

「いえいえ、何でもないです。…あーあ、私もあと2年早く産まれてたらな〜…」

心の底から 本気でそう思ってる。

いつも通り(哀しいけど)、会話を流されるかと思いきや

センパイは真剣な表情で答えてくれた。

「2年なんて差、俺は気にしないんだけどな」

・・・・・・。や、やっと…新堂センパイがあたしの気持ちに答えてくれた…っ?

「そ、そうですよねっ!2年なんて、あっという間ですよね?」

「ああ。少なくとも 俺にとっては、だけどな。まぁ卒業するまで待つさ」

感動のあまり 泣けてきちゃったじゃない。

うっうっうっ。今までの苦労が報われたのね・・・っ。

「セ、センパイィィ」

「な、何泣いてんだよ・・・俺が泣かしたみたいだろ?これじゃ」

おろおろと焦り気味に あたしをなだめる。

「もう少し泣かせて下さいー。えぇぇぇん」

「・・・ちょっと会う奴がいるんだけど、行っていいか?」

ここにいさせて、恥をかかすのも悪いし・・・。

卒業するまで待つ、って言ってくれたし・・・。

「はい。いーです。・・・えぇぇぇん、よかったよぉぉ」

「・・・・ま、いいか。じゃあな」

「はいぃぃ。今晩、電話しますぅぅぅ」

「・・・お前、毎晩 電話してきてるじゃん・・・」

「えぇぇぇん、えぇぇぇん」

「改めて じゃあな」

先輩は証書の入った筒で、ポンポンとあたしの頭を軽く叩いて去っていった…。

「えぇぇぇん、あ、明日からデート三昧よ・・・!!」

 

STORY 3:新堂 誠
〜 好きだから、諦めない。一緒にいたい 〜

 

理由もわからず泣いている福沢を置いて 俺は1年の教室へと駆け込んだ。

全部の1・2年が3年の教室へ行ってしまったらしく どこの教室にも人気がない。

告白するには絶好の穴場ポイントだ。

…ああ、ちょっと語弊があったな。

誰もいない、んじゃなくて・・・俺達以外、誰もいない。

達、とつけたのは・・・もちろん俺以外の誰かがいるからであって。

誰・・・っていうのは、その・・・そうだよ、うるせーなっ!!

田口 真由美だよっ(逆ギレモード)!!

「卒業おめでとうございます」

「あ、ああ・・・」

相変わらず屈託なくニコニコと笑っている。

「これ やるよ」

卒業者全員に渡された花束を差し出す・・・っていうよりは、つきつけてやる。

「いいんですか?こんなに綺麗なお花を・・・」

「田口には劣るけどな」

・・・って言えよ、俺っ!

「持って帰っても 飾るとこなんか無いんだ」

「・・・そうなんですか・・・」

田口の表情に影がさす。

「どうした?」

「いえ・・・淋しくなるなぁ、と思って」

弱々しい笑みを浮かべて、窓の外へと視線を投げ出す。

「新堂先輩も、坂上先輩も、岩下先輩も・・・風間先輩も、いなくなっちゃうんですね」

「・・・・・ああ」

「もう 会えなくなっちゃうんでしょうか・・・?」

「会おうと思えば いつだって会えるだろ」

心情とは裏腹に明るく言ってみせる。

「俺は田口が呼べはいつだって、それこそ本当に飛んで行ってやるさ。

・・・それは坂上も 風間も一緒だな。岩下はわかんねぇけど」

再び いつもの微笑みが田口の元へ戻ってきた。

それを俺だけに向けてくれる。

こーゆーのを 幸せっていうんだよな。きっと。

「私は…幸せものです」

「お前と一緒にいる奴も幸せものだ」

「???」

…全く。折角のチャンスだったんだけど…ったく、オレってヤツはよぉ。

「何でもねぇ。…そうだ、今度の日曜ヒマか?」

「ヒマですけど…?」

「あー…その…あのな・・・ひゃ、百物語をやらないかって…さ、坂上が・・・」

…本当は映画にでも誘おうと思ったんだけどな…(大後悔)。失敗だ・・・。

よりによって 坂上を引き合いに出して百物語とは。

どーして こう・・・大事な時に逆走してくれるんだ、俺ってヤツは。

しかも・・・めちゃくちゃ嘘八百じゃねぇか・・・。

「面白そうですねっ」

失敗・・・でもないか。

「なら他の奴らも、誘っとくぜ」

坂上に頼み込んで 開催してもらおう、百物語。

あいつなら きっと協力してくれるだろう。

「『他の』って・・・いつものメンバーですか?」

この『?』は問いかけ、というより確認、といった意味だろうな。

「わかってるじゃん」

「丁度良かった…これから誘ってきますよ。この後、風間先輩に会う約束があるんで」

「・・・風間と?」

「はい」

・・・まあ・・・風間なら・・・。

岩下と云々って噂もあることだし 田口に手は出さないだろう。

「わかった。俺は・・・坂上に会っとくとするか」

何より百物語を開催してもらわないと 田口と会うきっかけが無くなる。

「詳細は電話でいいですよね」

「だな」

「じゃあ、また」

紺色のスカートの裾をひるがえして 田口は廊下を走っていった。

 

STORY 4:田口 真由美
〜 私を選んで 〜

 

「あ、ごめんなさいっ!」

急いで廊下を駆けていたら 曲がり角で他の生徒にぶつかった。

「危ないなぁ・・・僕の身体に傷がついたら 責任とってくれるのかい?」

「・・・って風間先輩じゃないですか・・・」

「丁度よかった。探してたんだ」

のほほーん、と言ってのける先輩。

「探してたのは私の方です!教室で待ってて下さいね。って言ったじゃないですか」

「それが・・・先生に呼ばれてしまってね」

「卒業式の日まで、ですか・・・?」

卒業生自ら、先生に挨拶をしに職員室に向かう事は珍しくないけど。

呼ばれる、って・・・。

「うーん、優秀な生徒が卒業するのが惜しいのかも・・・」

「実は留年だったり」

「・・・いやだなぁ・・・」

「そんなに嫌がってないように聞こえますけど・・・」

“留年”という単語で、ふとある事を思い出した。

「留年っていえば・・・この前 坂上先輩が変なことを言ってたんですよ」

「坂上が変な事をいうのは いつものことだろ?」

「それは風間先輩でしょう。

『俺たちはいつまでも“卒業”できないんだ。もちろん、お前もな』 って・・・」

風間先輩の表情が冷たく・・・なったかもしれない。

次の瞬間には バカ笑いを始めたから・・・・・・・・・・よくわからないけど。

「わははははは。坂上もクサいセリフを吐くようになったなぁ」

大声で笑うものだから 廊下中の視線が集まる。

中には わざわざ教室から顔を出して覗いてくる生徒もいた。

「せっ、先輩!そ、そんな大声で・・・!」

「人生に卒業は無いって?わははははは」

バカ笑いを続けたまま 先輩は職員室の方へと歩いていってしまった。

「わはははははは・・・」

声が小さくなって 聞こえなくなった。

そこでやっと、私は当初の目的を思い出した。

「あ・・・私、告白・・・するつもりだったんだけど・・・なぁ」

ついでに、百物語について誘うのも忘れてた。

はぁ・・・しっかりしなくちゃ。

 

STORY 5:風間 望
〜 明日も君と一緒にいたくて、生きているような気がする 〜

 

「わははははははは」

「そのバカ笑いをやめて」

階段の踊り場に 僕を呼んだ先生・・・岩下がいた。

「もしかして・・・待ってた?」

「別に」

そっけなく返される。

でも、これまでの統計から岩下が『別に』って答えた時は

yes の意が多いという結果が出ている。

「坂上は・・・気づいてたんだなぁ・・・」

「何が?」

「僕たちが永遠に “卒業” できないこと」

目を合わせるのが 少し辛くて さりげなくそらした。

「気づいてるのは これで4人か」

壁に背を預けた岩下が 獲物を仕留める寸前のような笑顔を浮かべる。

「6人の中でも気づいてないのがいるっていうのに・・・私が目をつけただけあるわね」

「・・・あれ?坂上に乗り換える??」

冗談ぽく(もちろん冗談だし)問いかける。

「誰と決めたことは無いけど。・・・ま、おちおちしてると 鳥はすぐ飛んでくわよ」

「じゃ、ずっと捕まえとかないとね」

岩下の冷たい手を握って 隣合う。

困ったような顔をしたけど、僕の手を振り払ったりはしなかった。

「今日、卒業しても・・・」

「1年後にはまた三年生さ。その時には田口くんが部長かな」

「で、新しい新聞部員がいる」

「きっと名前は日野・・・」

性格悪いだろーなぁ、と付け加える。

「また1年間 眠らないといけないのね」

「今回は坂上も一緒だし。退屈はしないだろう」

1年後、田口くんに頼まれて 日野に怪談をしてやるんだ。

僕たちは、何の為にここにいるんだ…?

・・・なんて事は、もう考えない。

考え飽きたし、無駄なのはわかっているから。

ただ、一緒にいたいだけだから。

「そうだ。何の用で僕を呼んだんだい?」

「一緒に・・・・・・・帰ってあげても、いいわ」

「・・・・・・・お願いするよ」

 

STORY 6:荒井 昭二
〜 小さな恋の物語 〜

 

学校裏の林の中。

僕は切り株に腰を降ろしていた。

「な、何なの・・・あんた達は・・・っ!?」

僕の目の前には 自称:天界のキューピッド なる霊がいる。

霊、というと何故か怒るので 彼女とでも言っておきましょう。

「だから・・・この学校に憑いた霊、とでもいいましょうか」

「なんで、そんなのが何人も〜!?」

「わかりませんよ。そう仕組んだ人に聞いて下さい」

彼女は背中に、立派な弓を背負っている。

俗にいう・・・愛のキューピッドと同一視して構わない、と言っているようですが・・・。

「これじゃ矢の無駄使いだわー」

「“人間”で無くてはいけないとは・・・差別ですね」

「そう思うでしょっ?!ね?ねーっ??」

「ともかく あの人達に刺さった矢はムダだった、と」

「・・・それより あの7人・・・・・とっくに矢の効力は切れてるはずなのに。

おかしいなぁ。霊には効力が持続するのかしら」

考え込む彼女に、頭の中にある考えを話してみる。

「多分 とっくに効力はきれてます。元来 霊は呪いに強いものですから」

「呪いだなんてっ!」

「でも それに近いメカニズムでしょう?

霊が呪いにかかったんじゃ、情けないにも程がありますし」

「まあ・・・ミイラとりがミイラになるより悪質ね」

で、ここからはあくまで推論ですが…と前置きしておく。

「何十年も同じサイクルで眠りにつき、再び起きる・・・なんて事を続けていれば

イレギュラーな事が起こってもおかしくないでしょう。もっと言ってしまえば・・・・・」

「しまえば?」

ふわふわと宙に浮いている身体を乗り出してくる。

「それを僕たちが望んでいたんでしょう。

貴女の行動は、結果として渡りに船だった、と」

「・・・・・・・はぁ。どうやって報告しよう」

「そのまんま 報告したらどうですか?」

「信じてもらえるかなぁ?」

「確かに・・・僕も、貴女の存在が信じられませんからね」

機嫌を損ねたのか 彼女は顔をしかめて語気鋭くつめよってきた。

「信じられない、ってわざわざ正体をバラしてまで、ここにいるのよっ!?

これで幻だったなんで思われちゃ、こっちは頭にくるってーのっ!!」

「・・・その言葉、そのままお返しします」

「う゛っっ・・・」

深くタメ息をついて 首を横に振った。

「降参。そのまんま報告してくるわ」

「それしかないでしょう」

彼女は空ヘ上っていく途中 振り返ってこう聞いた。

「ねえ、また逢いに来てもいい?」

「・・・僕にですか?」

「思いあがんなよ〜?・・・って言いたいけど その通りだしね」

「ま、いいでしょう。僕も他の霊についての知識が欲しいですし」

「だから、あたしは霊じゃないってばっ!!」

「その違いがわかるまでは 通い続けて下さい」

僕の中では 最高ランクの笑みを向ける。

「ほんと・・・1からの始まりね」



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