狂気の沙汰
「お前は死刑だ」 殺人クラブ部長の一言で、何度目かの人狩りが幕を開けた。 今回のターゲットは、新聞部の新人、坂上修一・・・・。 新聞部部室―。 二人の男女は、息を潜めてターゲットが来るのを待っていた。 ロープを握り締めた岩下は、もうすぐ現れるであろう愛しい男を想い微笑した。 そんな岩下の瞳に、彫刻刀を持ち、何度も振り下ろしては悦に入っている荒井の 姿が映った。 「・・・一言、言っておくけれど」 岩下は、起伏のない淡々とした口調で、荒井の背中に声をかけた。 「・・・何です?」 荒井も、こちらを振り向くことなく、ぽつりと言葉を返した。 「彼を殺すのは私だけれど、もし、あなたにチャンスが出来たら、仕方ないわ。  殺す権利を譲ってあげる。でもね、殺すなら心臓一突き。綺麗に殺して。  死体は私がもらえることになっているんだから」 「・・・約束は出来ませんね。僕は、あなたと違って、彼に対してあるのは憎しみ  だけですから」 具合の悪い自分を無視して、イスに座り続けた彼。 きっと、もしあそこで倒れても、彼は見向きもしなかったに違いない。 あんなに冷たい人間がこの世に居るだろうか。自分のような被害者をこれ以上 出さない為にも、彼は死ぬべきなのだ。 荒井の口から、ひひひ・・・と、笑いが漏れた。 彼の何処を始めに刺そうか、頭でシミュレーションしているのだ。 岩下の口調がきつくなった。 「彼はとても優しい人よ。私には分かる。そんな彼が、あなたを無視するなんて  考えられないわ。それに、事情を話せば、すぐに済むことじゃなくて?全ては  あなたの被害妄想だわ」 「岩下さんこそ。理解できませんね。愛する人を殺して、一生そばに置こうなん  て、普通考えませんよ。死ねば、いつか朽ち果ててゆく。変わり果てた彼を、  あなたは愛し続けられるのですか?」 「あなたには、分からないわ」 「その言葉、そのままお返ししますよ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 二人は、静寂の中、睨み合った。 もともと仲間意識など皆無に等しい二人だ。二人の間に、ふつふつと殺意が芽生 え始めていた。 一触即発。 その時、ドアの向こうから此方へ向かってくる足音が聞こえた。 彼だ。二人は視線をはずし、ドアへ目を向けた。 (あの時の僕の辛さ。何十倍にもして返してあげますよ) (愛しているわ。永遠に、私のそばに居てちょうだい) 二人の思いが交差する。扉が開かれた。 そして・・・・。


前のページに戻る