Be Cool
「失礼します…ッッ!!」 「…あれ、坂上? おまえ 風邪ひいてたんじゃなかったのか?」 昨日から学校を休んでいた坂上が いきなり部室に飛び込んできた。 「日野先輩………今年度の学生名簿って 何処にありますか!?」 「資料棚の2段目だけど」 挨拶もなしに資料棚へ直行する坂上。 目的の名簿を引きずり出すと 落ち着かない様子でページをめくっていく。 あきらかに 様子がおかしい。 なんとなく 顔が青ざめているのは、風邪のせいなのか? それとも……? こっそりと名簿を 横からのぞきこむ。 と 気づいた坂上が すぐに名簿を閉じた。 「な、な、なんですかっ!?」 「それはオレのセリフだっつうの。気になる娘の住所でも調べにきたのか?」 「ち、ちがいますよっっ!!…そんなコトじゃないんです!!ほっといてください!」 「…坂上クンってば そんなことで怒るなんて おとなげな〜い」 パイプ椅子に座り、飲みかけの『おしるこドリンク』をすする。 「…………………」 ……………? 「坂上…?どうした?マジで怒った?」 「じゃ どっちがオトナか確かめてみましょーか…?」 名簿を抱え込みながら、意味深に微笑みかける坂上。 「……は……?」 妖しい微笑みを絶やさぬまま 坂上がこちらへ迫り来る。 オレは 警戒しながらも動揺を隠して その様子を見守った。 「僕、先輩のタメにがんばってますよね?」 「それなり にな」 「じゃ それなり の “ご褒美”、下さいよ…」 坂上が 自分の額をコツンと、オレの肩にぶつける。 女みたいに まつげが長いな、コイツ。 「あのなー…そういう冗談がオレに通じると思うなよ。泣き寝入りしても知らないぞ」 「ふふっ…」 ゆっくりと坂上が顔を近づけてくる。 …が さっさと その顔に おしるこドリンクの缶を押し付けた。 「オレ、非生産的な恋愛するの 好みじゃないんだよね」 「…生産的ですよ」 そういって 学ランのボタンを1つずつはずしていく。 そこから 見えたのは胸元をきつく締め付けている さらし。 「………マジで?」 「信じられないなら 信じさせてあげますよ。おしるこドリンクより オイシイと思い ますけど?」 「………………………坂上。とりあえず 落ち着け」 「『坂上 修一』なんて人間は いないんですってば。…ホラ」 ヤツは持っていた名簿の あるページを開き、机の上に投げ出した。 それは 『坂上 修一』が在籍しているクラス名簿と個人写真のページ。 …の はずなのだが… そこには『坂上 修一』という名前はおろか 今、オレの目の前で妖艶に笑っている ヤツの姿もない。 「どういうことだよ」 「…こまかいことは 気にしちゃいけないってコトです。そんなことより、ね…先輩…」           「……先輩。日野先輩!」 「はっ!!」 気づけば ここは コピー室。 「コピー、とっくに 終わりましたよ。部室に運ぶの手伝って下さいね」 どうやら うたたねしてしまったようだ。 「あー…夢か。…ちっ」 なにが『…ちっ』なのか 自分でもわからないが。 「…ずいぶんといい夢だったようで」 「ああ。実はおまえが女っていう…」 「はァ?………それって …その…欲求不満なんじゃないですか?」 「かもなァ…」 やっぱ 面倒くさがってないで 彼女作るべきか…。 複製されたばかりの新聞を抱えて、オレはコピー室を出た。     「……びっくりした……ぁ」 後に残された坂上は 何故か 安堵のタメ息をついたとか。


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