Close your eyes

<written by Miou.Shiina>

 

 

ワンルームマンションで 彼女と共同生活を始めてから 2週間が経つ。

彼女は 毎日 キャンバスに向かって 絵を描いているし

俺は 毎日 インスタントコーヒーを飲みながら 真剣な彼女の横顔を見ている。

学校にも行かず、友人にも会わず・・・。

ゆるやかに 2人きりの時間が流れていく。

俺にとって かけがえのない至福の時間が 過ぎていく。

 

彼女の名は 岩下 明美。

俺の名は 日野 貞夫。

 

 

 

 

 

「岩下」

「・・・・・・・なに?」

用事を済ませ 新聞部の部室を出ようとした彼女を 俺は呼び止めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「用が無いなら 呼ばないで」

一瞬の躊躇の後、 棚に置かれたビニールテープへ手を伸ばす。

「一緒に、帰ろうぜ?」

 

 

 

 

 

俺は 彼女を 愛している。

美しく 強く 誰にも媚びることのない彼女。

けれど それ以上に ・・・・・ 少しずつ壊れていく彼女を見るのが 好きだった。

俺は 彼女を 愛している。

 

 

 

 

 

不変の物は存在しない、と言ったのは誰だっただろう。

俺以外の人間と 交流を持つ機会が多くなるにつれ 彼女は変わっていった。

以前より 笑う回数が増えた。

以前より 涙を見せる回数が増えた。

以前より 他人の感情を考えるようになった。

俺の愛する彼女は このまま いなくなってしまうような気がした。

 

 

 

 

 

だから・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閉じ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女を監禁した翌日、部室に “ヤツ”を呼び出した。

「なんだい?」

いつも通り シニカルに笑ってみせる“ヤツ”に言ってやったんだ。

「岩下は 返してもらったから」

 

 

 

 

 

「先に捨てたのは お前の方だろ」

“ヤツ”は 言った。

捨ててなんかいないさ。

ただ 坂上という玩具が 予想よりも面白かっただけの話。

 

 

 

 

 

“ヤツ”が 俺に問う。

「岩下を なんだと思ってるんだ」

俺は 素直に答えた。

「綺麗な玩具」

 

 

 

 

 

その日以来 学校には行っていない。

 

 

 

 

 

彼女の両親が騒ぐ気配は まったくない。

彼女曰く

「あの家に 私がいる意義なんてないから」

だそうだ。

 

 

 

 

 

彼女は決して 自分から 逃げ出したりしない。

“ヤツ”が迎えにくるのを いつまでも・・・それこそ 死ぬ時まで 待つ気だ。

 

 

 

 

 

それが わかっていても、俺は 自分から彼女を手放すような事など したくない。

彼女自身の意志で この部屋から 出ていって欲しい。

 

 

 

 

 

そして “ヤツ”は 絶対に この部屋に現れない。

“ヤツ”は 俺が彼女を手放すときを 待つつもりだろう。

 

 

 

 

 

何故なら

“ヤツ”が 無理矢理 彼女を連れ出すのなら・・・

 

 

 

 

 

きっと 俺は 彼女を殺す。

 

 

 

 

 

そう考えていることを “ヤツ”は 知っている。

だから “ヤツ”は この部屋に現れない。

“ヤツ”が 本当に 彼女に惚れている事くらい 俺だってわかるから。

 

 

 

 

 

終わりの見えない ループに 取り込まれてしまったようだ。

「どうしたら 俺達は救われるんだ・・・・・・・・?」

そう 彼女に問い掛けてみる。

返事は 無い。

戯れに 彼女にキスをする。

返事は やはり 無い。

 

「なぁ・・・目、閉じろよ・・・」



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