『仮面の少女』−( シリアス風 )
春休みが間近にせまってきた。 僕はもうすぐ、慣れた1年の教室から2年の教室へと移る。 2年生が使用する教室がある階と、今の教室から見える窓の風景はほとんど 変わらない。 変わるのは・・・新学期が始まる頃には、あの旧校舎はなくなっている事ぐらい だろう。 七不思議の特集は結局出せなかった。集まってくれた語り部は、1話終わる たびに消えてしまった。 その上、旧校舎の取り壊しが始まった初日には、白骨化した遺体が6体も出 てきて、大騒ぎになったのを今も憶えている。 解体工事は延期となり、再開されるのが今度の春休み。 今まで警察の事情聴取に何度狩り出された事だろう。しかし、彼女の事を僕 は誰にも話さなかった。それは彼女に悪いと思ったから話さなかったのもあ るけれど、どうせ言っても信じてもらえないから。 実は彼女はよく夢に出てくる。今は仮面を付けず、素顔のまま。 最初は恐怖心しかなかったのに、この頃は平然と会話ができてしまう。 ほら、今夜も・・・・彼女は現れた。 「花子さん、こんばんは」 「坂上君、まだ私の事を花子さんって言うのね。ふふ」 それは【キミが本当の名前を教えてくれないから】と心で伝える。 「でもそこが坂上君らしいよ。普通の人なら私の存在を怖がって否定して、  こうゆう風に関わりを持とうとしないのに」 僕自身、不思議に思う。なぜか彼女に心惹かれてしまう。 「それって誉められてるのかな。まぁいいけど。で、今日は?」 「あのね・・・もうすぐ旧校舎が取り壊されるよね。そうなったら私は完全に  消滅するの。だから・・・その前にどうしても知ってもらいたいことがある  の」 「それって旧校舎の中にあるわけ?」 「ええ。急で悪いけど、来てくれるのを待ってるから」 彼女は伝え終わると静かに消えていく。 あとには暗い空間が僕の周りにあるだけ。 明日は休み前最後の日曜じゃないか。 忍び込むなら・・・明日しかないな。 日曜の朝、僕は制服に着替えて学校へ向かう。 卒業式も済んでいる学校は特別な予定もなく、人気がなく閑散としている。 それでも周辺に人がいないのを確認してから、旧校舎の中へ入った。 「坂上君、こっちよ」 彼女は廊下で手招きしながらドアの前にいる。 「ここは?」 僕は彼女の隣に行ってから聞いてみた。 「学校行事で撮影された写真やネガを保管してたの。つまり旧新聞部の部室」 「へぇー。ここが?じゃあ、今から20年以上前の先輩はここで新聞を作っ  てたんだ」 彼女は静かに笑うと、書類棚の中から古ぼけたファイルを差し出した。 表紙には『創部からの部員名簿』とある。 「ここ見てくれる?」 彼女が開けてくれたのは1977年のページ。 そこには1枚の写真が挟んである。 「わ!?」 そこには彼女が写っていた。今と全く変わっていない。 そして、裏を見てさらに驚いた。 【 後輩の女の子を撮影 坂上修三 】 「坂上君のお父さん、初恋の相手は私なのよ。くす」 僕は自然と笑っていた。照れ隠しなのが大半であるけど。 親子そろってこの子に・・・。 「私は今は霊体だから、写真には写らないし。坂上君にもらってもらうのが  1番でしょ。私の心残りは、もっと高校生活を送りたかった事だけど、坂  上君に会えたからもういいの」 言葉は僕の胸に響く。もし、この子と同じ時間に高校生として過ごせたら、 僕は守りきれただろうか?その自信はないわけじゃない。 僕はそっと彼女を抱きしめてから、キスをした。どこかは想像に任せるけど。 3学期はもうすぐ終わる。旧校舎がなくなれば、彼女とは会えない。 ようやく、あの時の名簿を見て彼女の名前も判明したのに、もうすぐ会話も できなくなる。 ただ、僕の部屋には写真立てがひとつできた。 父親がもしこれを見たら、どんな反応をするか楽しみだ。


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