*この作品は、椎名海桜さんのサイト『Black_Limited(閉鎖しました)』で、2001年3月まで公開されていたものです。


If you were here

 

「あーあ・・・いっつも いっつも 残業で・・・僕の将来が見えてきたなァ」

陽も暮れかけた時間帯・・・

僕は夕焼けで赤く染まる 新聞部の部室で大量の写真の山と格闘していた。

あの人が 『新しい写真、現像できたぞ〜』 と言いながら

これを バラバラと僕に押し付けたからである。

もちろん・・・ あの人とは 日野先輩。

逆らえるハズもない 下っ端部員の僕は おとなしく写真の整理をするしかない。

・・・はぁぁぁ(タメ息)。

考えてみれば あんまり幸せな生活じゃないよな。

新堂さんには バカにされ、荒井さんには見下され、風間さんにはおちょくられ、

細田さんには まとわりつかれ、岩下さんには 脅され、福沢さんに 振り回され、

極めつけ 日野先輩の奴隷・・・。

僕の人生って・・・・・・。

おっと、感傷にふける前に 整理整理っと。

「えーっと これは体育館の写真だから・・・あっちのアルバムか・・・

日野センパイも 写真の整理くらいしといてくれればいいのに・・・」

机の端にある “体育館・プール”と書かれたアルバムを取ろうと手を伸ばした時

僕の背後から 別の手が現れて アルバムを掴んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「はい♪坂上くんは 手が短いねぇ」

文字色・・・いや、声で わかって頂けたでしょうか・・・?

「風間さん・・・?」

ゆっくり 振り返ると・・・やっぱり 風間さんがいた。

手には 演劇部にありそうな “杖” を持っている。

風間さんの後ろには 新堂さんや岩下さん達も杖を持って立っていた。

「どーしたんですか・・・? ハンズで売ってそうなパーティグッズなんて持って・・・」

「下手な事 言うもんじゃないぜ オレ達は願いを叶えるために来たんだからな」

「・・・・・・は? 新堂さん・・・何言って・・・」

「だーから オレは 新堂なんて名前じゃない。魔法の国からやって来た魔法使いだ」

「魔法の国・・・って(ガビーン)」

僕は 本気で衝撃を受けた。

ついに 新堂さんも “ミンキー●●”や“クリー●ー マ●”の世界へと・・・。

蒼白になった僕に 福沢さんたちが 話しかけてくる。

「いま もうこの世界がイヤになってたでしょ?」

「私たちが あんたを幸せな世界に連れていってあげる」

「今とは全く違う・・・もっと幸せな世界に」

そう言うと 荒井さんは 持っていた杖で 僕の頭を殴りつけた・・・・。

 

 

「はっ!!」

気がつくと 僕は・・・学校の校門前で倒れていた。

土を払いつつ 立ち上がった。

「あれ・・・・??」

夕方だったハズなのに 朝の気持ちいい日差しが 僕を照りつけている。

学校の桜の木からは 桃色の花びらが 咲き乱れ・・・って。

「いまは 11月・・・だけど・・・?」

「おはよう 坂上くん」

「岩下さんっ」

いつの間にか 側にいた岩下さんは 怪訝な表情をしている。

「岩下さん・・・・? どうしてそんなに他人行儀なの? 昔からの幼馴染じゃない・・・」

「はぁ!?」

もちろん 僕と岩下さんが 幼馴染だなんて知らないし 覚えもない。

「きょうは 入学式でしょ。同じクラスになれるといいわね・・・ふふふ」

「にゅ にゅーがくしきぃぃ??」

「さっきからおかしいわよ?どーかしたの?」

「な、なにが何やら・・・あ」

視線を彷徨わせていた途中、僕は校門に掲げられた学校の名前を見て愕然とした。

『ぎらめき高校』

違う・・・。

ここは 僕の知っている高校じゃない・・・。

それに 『ぎらめき高校』って・・・コ●ミの元祖恋愛SLGの舞台のパチモンじゃ・・・。

「坂上くん これから3年間、全てのパラメータをあげて 卒業式には

私の立派な下僕になるのよっ!?」

「ひーっ ゲームが違うぅぅぅ」

「ちなみに カリスマっていうパラメータを上げると 美容師からOL 教師まで

なれちゃうから とりあえず“布教”っていうコマンドを実行し続けなさいね」

気がつけば 僕の頭上にパラメータ一覧が現れていた。

あああ・・・いやだ、いやだ。

でも 体育祭に岩下さんと二人三脚できるなら・・・ああ、欲望に負けちゃいけないっ!

「それと 社交ダンスのパラメータを上げると

クリスマスには仮面舞踏会に出られるという・・・ちょっと 聞いてるの?」

「こんなの・・・こんなの 違ーうッッ!!」

僕は 頭を抱えて絶叫した。

 

 

次に気がつくと、僕は めちゃめちゃ重い 鎧を着ていた。

周囲の風景は・・・昔の外国の田舎町のようだ。

「よぉ! 勇者:坂上ィ」

向うから 新堂さん、荒井さん、細田さんが近づいてきた。

「新堂さん!」

「おいおい オレの事は戦士:新堂と呼んでくれよな」

「・・・・・・え?」

「勇者:坂上?冒険の旅に出るんでしょう。僕達も一緒に行きましょう」

冒険の旅??

もしや 今度は エ●ックスの不朽の名作RPG・・・(爆)。

再び 愕然とする僕の後ろに 3人が一列に並ぶ。

「ちょ、ちょっと・・・体育の時間じゃあるまいし、うしろに並ばないで下さいよぉ」

「ルールだから 仕方ないよ」

魔法使い:細田が 杖をふりふり言った。

「って 新堂さん!そんな大きな剣を振り回しながら歩かないで下さいっ!」

「しょーがないって!ルールなんだからさ。それに お前だって 振ってるじゃん」

「え゛っ!」

気がつくと 僕の右手は 立派な剣を持ちつつ ふりふりと・・・。

他人の手のよーな 右手を見つめる僕に 僧侶:荒井が言った。

「もし死んでしまったとしても 僕の蘇生魔法で生き返らせてあげますから安心して

戦ってください。 大丈夫、ちょっと死ぬほど苦しむだけですから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「じゃ 冒険の旅へと Let's Go!!」

「こんなの・・・こんなの違うッッ!!」

 

 

また 気がつくと、西洋風の服を着て だだっぴろい草原にいた。

「今度は何だろ・・・?」

「坂上くんっ!」

遠くから 福沢さんが呼びかける。

「福沢さん!!」

そして 僕が 福沢さんの元へと 駆け寄る・・・。

一瞬 身体が止まった・・・。

「いま ロード中だから ちょっと遅いかもねぇ」

え?ロード中って??

どこかにいる風間さんを探す前に 僕達は再び動きだした。

美麗な CGムービーとして・・・・・。

「ひィィィィィィィ!!!!」

風間さんの声だけが、どっかから響いてくる。

「キャラクター1人毎にCD約3枚を割り当て。総ムービー時間は何と8時間!!

ちなみにコンビニで予約して購入するとオリジナルストラップがもらえるぞ☆

学校であった怖い話 Zは CD26枚組28,900円で発売!!」

「な、七個めなんですかーッッ!?しかも CDの数から僕のムービーも

絶対入ってますねっ?」

「坂上くん・・・ちゃんと抱きとめてくれない・・・(怒)」

僕に飛びついてきた 福沢さんは、地面に倒れていた・・・。

「ごめん・・・でも、こんなのも違〜うッッ!!」

 

 

「はッ!!今度は・・・」

そう、今度は いつもの新聞部の部室にいた。

服装も いつもの着慣れた制服。

そして 目の前には、いつもの6人。

「良かった・・・あれ?」

・・・なんだか雰囲気が違う。

みんな 揃っているものの・・・いつもの仲睦まじい雰囲気ではない。

見知らぬ人同士が集まっているかのような・・・。

「みなさん・・・??」

「生きてるのね、良かった!!

じゃ 私、これから 芸能人を追わなきゃならないから 行くね」

福沢さんが 部室を飛び出して行った。

「僕も 幻の石像を探している最中ですので・・・失礼します」

続いて、荒井さんが出ていった。

「私も 虹色の絵の具を買いに行かないと」

「じゃ 僕も 謎の団体の会合に行くとするか」

「そうだ 隣町で 面白い映画やってたよな。観にいくか」

細田さん以外の全員が どこかへと行ってしまった・・・。

「どうして・・・?」

「偶然 全員が坂上くんのシナリオにZapしたんでしょうね

君も自分のシナリオを進めないと困るよ。 じゃ、僕も行かなきゃ」

そして 細田さんも 部室を出て行ってしまった・・・。

「・・・・・こんなの、こんなの違う・・・」

 

 

「良かった・・・坂上くん、気がついたわ」

「・・・・・え?」

部室の床に倒れこんでいる僕を 覗きこんでいる6人・・・。

今度こそ いつもの・・・!!

「まったく 突然倒れこんだりして心配したよ」

・・・え?

「新堂さん・・・?」

いつもの・・・兄貴ィ、な新堂さんじゃない・・・。

「心配することないよ 坂上が奇妙な行動するのはいつものコトじゃないか!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「まったく 福沢も。こーゆー時くらい 明るくしてみろよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

福沢さんは 顔色一つ変えず、うつむいている。

荒井さんは つまらないダジャレなんかを連発して 一人で大笑いしている。

岩下さんは 母親みたいに にこにこしながら僕の世話を焼いてくれる。

細田さんは ニヒルに窓の外の風景をみていた。

風間さんは 部室の隅で膝をかかえて 静かに読書をしていた。

「これが・・・幸せな世界・・・?」

そうだ、と どこかで 新堂さん似の魔法使いが言った。

「どうする?この世界で生活していくか??それとも・・・?」

もう 僕の中で 答えは決まっていた・・・。

 

 

カー、カー、カー。

「・・・・はっ!!」

写真の山に 顔をうずめて 僕は寝ていたみたいだ。

時計を見ると ・・・ 5分くらいしか経っていない。

「夢か・・・はー、なんだか 疲れる夢だったなぁ」

写真の整理は 全然 進んでないし・・・手早く片付けなきゃ!!

「これは体育館の写真だから・・・あっちのアルバムか・・・」

机の端にある “体育館・プール”と書かれたアルバムを取ろうと手を伸ばした時

僕の背後から 別の手が現れて アルバムを掴んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「はい♪坂上くんは 手が短いねぇ」

あれ・・・この会話って・・・。

恐る恐る 振り返ると・・・やっぱり 杖をもった6人が・・・。

「も、もういいでーす!!十分 満足してますぅぅぅ!!!」

僕は 逃げるように部室を飛び出した。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「な、なに?どーしたの、坂上くんってば・・・」

「せっかく 坂上くんの残業200回目を記念してパーティでもしようと思ったのに・・・」

「やっぱり この悪趣味な杖じゃねぇの??」

「このラインが嫌いだったのか。うーむ」

「いや、杖の外見じゃなくてよ・・・」

「せっかく 鼻メガネも買ってきたのに・・・逃がすわけには行かないな」

「じゃ 坂上くん捕獲大会ー!!」

「1000円ずつ賭けましょうか?つまり 捕まえた人には5000円というコトで・・・」

「「「「「乗った!!」」」」」

 

そして 全員が様々な罠を駆使して、僕を捕獲するという 坂上ゲッチュ!なる

大会が開催されたというワケでして。

やっぱし 僕の生活って・・・。



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