逢いたい君がいない
あの事件から一年。 もうすぐ高校二年生になる私は、親戚の一周忌のため田舎にある本家に来ていま した。去年はおばあちゃんの七回忌で、おばあちゃんには失礼かもしれないけど 楽しいものでした。とある事件が起こるまでは。 きっかけは、去年亡くなった和子おばさんが話した赤い靴の女の子の話。 おばあちゃんが起こしたちょっとしたことがきっかけで、悲劇が起きてしまった 。本家の主婦であった和子おばさんと、その息子の良夫。そして、いとこの泰明 さんが殺されてしまった。今思うと、誰が悪いとも言えない悲しい事件だった。 今もたまに、あのことを夢で見てしまうことがある。 現実を夢で見るなんて嫌い。逃れられないことだって思い知らされるから。 そして、あの事件がきっかけで私も変わったらしい。友達が言うには「以前より 笑わなくなった」とか、「たまに難しい顔をしている」らしい。 私はそんなつもりは無いんだけど、周りにはそう見えるみたい。 「葉子、アレ出すのやめようよ。あたしだってアレ見るたびに思い出すよ。今、  刑務所に行ってる三人のことをさ」 半分諦めたかのような口調で咎めるのが、遠い親戚にあたる由香里姉さん。 去年の事件の生き残りで、今では私のことを本当の妹のように接してくれていま す。事件が解決した直後、真っ先に慰めてくれたのは由香里姉さんだっけ。 あの時は・・・ 「由香里姉さん。私、由香里姉さんには感謝してるよ」 「いいって。私も放って置けなかったし。それに、止められなかった・・・」 「謝らなくても・・・。私がちゃんと注意していれば泰明さんも死ななかったし」 「私も・・・良夫を抑えておくんだったよ。抑えておけば良夫は哲ニィに・・・」 お互いに自責の念があるみたい。 でも、実際に悪いのは誰?事件を引き起こすきっかけを作ったおばあちゃん? 何も知らなかった私たち?それとも和子おばさんたち?正美おばさんたち? 何にも解らない・・・。本当の善悪がわからないよ・・・。 人形が少しだけ涙でぬれた。何で、いまさらになって泣くんだろう? 「葉・・・子?」 「ヤダ・・・なんで泣いてるんだろう?あの時は泣くことができなかったのに」 「葉子は悪くないよ。誰も悪くない」 由香里姉さんが私を抱きしめてくれた。悲しそうだけど、一生懸命暖めようとし てくれてる。 由香里姉さんだって泣きたいのに・・・かわいそう。 「きっと、緊張が解けたんだよ。『ああ、一年も経っちゃったんだ』って。泣け  るうちに泣きなよ」 自然と由香里姉さんの声が震えているのがわかった。 同じ気持ちだったんだ。 ああいうことって忘れられないのかな? 忘れることができたら、気持ちが晴れるかもしれないのに・・・。 本当にどうしたら良いんだろう。 私たちは、しばらくこのままでいた。 少しだけ、現実から逃げたかったのかもしれない。 ねぇ、良夫。良夫ならどうやって笑うの? 和子おばさん。おばさんは天国でも良夫に手を焼いていますか? 泰明さんは、天国にいった人たちのための番組を作ってるんですか? 正美おばさん、許してくれなくても良いです。ただ、時々顔を見せてください。 優しい時のあなたが忘れられません。 哲夫おじさん。正美おばさんを支えてあげてください。おじさんしかできないで すから。 最後に和弘さん。私はあなたを恨んでいません。ですから、自分を傷つけようと はしないでください。これ以上、泣きたくないですから。 逢いたい人がいない。こんな時、どうすればいいのでしょうか。 それも、好きだった人の場合。


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