Wintersun (Yond Nevo Mix)
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すっかり色褪せた樹木を彩る黄金色の葉も残りわずかとなったこの時期。
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凍えるような空気が、風となってあたりを自由気ままに走り回る。
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今回、舞台となる町をこのような視点で見れば、冬が来たと言ってもおかしくは無い。
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そんな真冬の道を一人の少年が歩いていた。
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「うへぇ〜。寒ぃ」
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少しばかり身を縮めている少年・・・前田良夫がそっと呟いた。
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少年は、少し汚れたサッカーのユニフォームにジャケットを羽織っているといった感じだった。
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今年の春から入団した少年サッカーチーム。そのチームのプレイヤーとして始めて出場したのが
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今日の試合だった。
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ミッドフィルダーとして攻めつつも、フォワードに好アシストをしていた良夫だったが、試合直
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前までは予想だにしなかったことが起こったのだ。
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良夫は、一旦ディフェンスに球を回してパスしてもらおうという考えでディフェンスに回した。
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が、回した相手はトラップが苦手だったらしく、間違えてオウンゴールを決めてしまった。
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これまで互角の戦いをしてきたチームであったが、このオウンゴールのせいで負けてしまったの
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だ。
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あの後、自分が下手なパスをしたから悪いと仲間に弁明したが、その他のチームメイトは、オウ
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ンゴールをしてしまったディフェンスのせいにしていた。
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「何で新人の俺じゃなくて少し先輩のあいつを・・・」
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と良夫はそのとき思っていた。
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そんな思いもあったのだろう。まとわりつく冷気が一段と冷たく感じる。
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「寒い・・・。早く帰って母ちゃんにおしるこ作ってもらおうかなぁ」
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彼はいつもとは違うルートを通っていた。
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無意識に考え事をしていたいと思ったからかもしれない。いつものルートとは違い、回り道が多
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いので時間がかかる。だからいろいろと考えるのに便利なのだろう。
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いろいろと考えているうちに、良夫はとある空き地でこんな歌を耳にしてしまった。
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「あの子がいなくなるからね」
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「!!」
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振り向くと、そこには不気味な歌詞を口ずさみながらあやとりに興じている、青いセーラー服を
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着た少女が佇んでいた。
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一見、ほほえましい状況に見えるが、妙に病的な美しさがかえって怖さを感じてしまう。
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良夫はこの様子に聞き覚えがあった。
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「母ちゃん・・・俺、死ぬかも。ヒナキちゃんが出るスポットがここだなんて・・・」
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そんな絶望感が頭をよぎる。そのとき、歌が止まった。
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「早くここから立ち去りなさい」
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妙に澄んだ声が聞こえた。声の主は・・・セーラー服の少女!!
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(ゲゲッ!!オレ、もしかしてばあちゃんのところにお世話になるの!?)
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無礼だがそんな予感がしていた。
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良夫は知っているのだ。いや、母に無理やり聞かされたのだ。七回忌の晩に。はっきり言って夢
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に出そうなくらい気味が悪い話だった。何せ身近に起こった話だから。
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その予感が、良夫から寒さを奪っていた。精神的に寒くなったから凍えるような感覚がなくなっ
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たという説もあるが。
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「聞こえてるの?それとも、私に話し掛けられたってことで死ぬんじゃないかと思ってるのかし
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ら?」
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ま、まったくもってその通りです・・・。
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そう言おうと思っても口に出せなかった。正確には首から上の筋肉が固まっていた。
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とにかく不吉な予感がした良夫は、すぐさまその場を走り去った。
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「・・・彼だけは」
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「・・・た、ただいま!!」
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思いっきり裏返った声で叫んだのは良夫だった。
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その声にびっくりしたのは良夫の母、和子だった。
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「ちょっと、どうしたのよ。監督に怒られたの?」
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それは違うと良夫は首を横に振った。そんなのは日常茶飯事だ。
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「一体何があったの・・・って良夫!?」
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黙って良夫は部屋に入っていった。あの、開かずの間に。
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「俺、死ぬの・・・?近いうちに死んじゃうの?」
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ヒナキちゃんに遭遇してから、そのことばかり頭をループしていた。
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だが、彼女の言葉が非常に気になっていた。彼女はこう言っていた。
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「早くここから立ち去りなさい」と。
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この言葉が何を意味するのかがいまだにわからないでいた。彼女は一体何を警告しているのか良
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夫は気になって仕方なかった。
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その日、良夫は夕食を口にせず、ユニフォーム姿のまま、開かずの間で眠りに着いた。
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「良夫!あんた、何て所で寝てるのよ!!とっとと起きて着替えなさい!!」
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翌朝、良夫は和子の声で目が覚めた。
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「なんだよ・・・一体何時だと・・・って今何時?」
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「あんた、寝室だと思ってない?ここ、私たちが葉子ちゃんらと怪談大会をやったところじゃな
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い。まぁ、いいけど。今は6時よ。とにかく、掃除の邪魔だし、昨日からそのまんまじゃない。
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早く着替えなさい。着替えは寝室に置いてあるから」
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良夫は、全然気付かなかったらしい。昨日、考え事をしているうちに寝てしまったことに。
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どうやらあまり考え事をしないせいのようだ。
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そんなこんなで良夫は着替えて、いつも通り朝食をとって、身支度をしてから学校へ行った。
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もちろん、いつも通る道で。
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日直だったので早めに学校に着いた良夫だったが、校門になぜか警察官が立っていた。
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「キミ、大丈夫だったか?」
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「え、何かあったのですか?」
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事態が読み込めない良夫。昨日はこれといった事件を聞いていないのだ。
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正確には聞けるような精神状態ではなかったのだが。
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「君、知らないのか?昨日の夕方、空き地の近くに仏さんが転がってたんだよ。あそこって確か
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・・・ヒナキちゃんが出てくるところだったかな」
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一瞬で血の気が引く音が聞こえた。昨日の夕方・・・自分もあの空き地にいた。そして、ヒナキちゃ
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んに声を掛けられた。しかし、こうして自分は生きている。一体何があったのだろうか・・・。
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クラスメートや教職員から聞いた話をまとめるならこうだ。
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チームメートの5年生・・・オウンゴールをしてしまったディフェンダーだ。そいつが昨日の晩、
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あの空き地で死体として発見された。死因は・・・不思議なことに衰弱死に似たようなものだった。
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目や肌は死んだ魚のような感覚をしており、衣服は激しく破かれていた。死んだ魚のような感触
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という点、衰弱死という点を除けば、変質者による犯行だと断定できる。だが、先ほどの二点が
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事件の不気味さをかもし出していた。
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「もし、俺がヒナキちゃんのところに行っていたら・・・」
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とめどない恐怖が、瞬時に良夫の体内を這いずり回った。
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そして、皮肉にもこの話題が学校を独占していた。
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良夫はすぐに着替え、そのクラスメートの葬儀に参列した。
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自殺ではないのにやるせない気持ちで涙が少しだけ出てきてしまった。その涙を悟られないよう
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に、必死になって俯く良夫。あいつは根が明るいやつだからきっと翌日にはケロリとしてるだろ
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うと思ったら・・・この仕打ちだ。一体神様は、どういった基準で運命を設けているんだろう。
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子供ながら良夫はそう思いたかった。長い話の中、ふと良夫は周りを見渡した。
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「やっぱりみんな悲しいんだ・・・!!」
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ふと目をやると見覚えのある人物がいた。青のセーラー服を着た、病的な美しさを持つ少女。
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間違いない。ヒナキちゃんだ。彼女も泣いていたのだ。
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「何で殺した張本人が!?」
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葬儀を終えた後、良夫は急いであの空き地に向かった。
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それほど仲は良くなかったが、彼を死に追いやった人物を許すわけにはいかなかった。
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聞きたかったのだ。事件の真相を。
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「動くなっ!!」
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あの空き地でヒナキちゃんを見つけるや否や、彼女めがけて良夫は走った。
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そして、彼女に体当たりをしようとした瞬間、ヒナキちゃんに押し倒された。
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「ここから先はあなたは来ちゃダメ」
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静かな口調で彼女は言った。
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よく見ると、彼女の美しさは病的なものではなかった。一言で言うなら冷たい美しさ。
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いきなり冷や水を掛けられたような美しさだったのだ。
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「て、てめぇ、何するんだよ!お前なんだろ、あいつ殺したの!?」
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ふう・・・っ。彼女は溜息をついた。まるで何者かを追悼するかのように。
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「信じて、くれないでしょうね。けど、ある意味私ね、殺したのは・・・。私が警告しなかったら生
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きてたでしょうから」
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「な、なんだよ。そのある意味って」
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彼女は細い指を良夫の唇に当ててこう言った。
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「今は聞かないで。明日の朝、教えるから。だから、今は聞かないで」と。
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翌日の朝、良夫は軽いトレーニングと言ってユニフォームに着替え、あの場所に向かった。
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とりあえず言い訳をするために、その場所まで走っていった。空き地までの距離はさほど長くは
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無いはずなのだが、妙に長く感じたのはなぜだろうか。
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その場所についたとき、入り口に彼女はいた。
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「約束、守ってくれるよな」
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「ええ。守ったら私、少しの間ココとさよならするから」
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一瞬、意味がわからなかった。一体何のことかを聞こうと思った瞬間―!!
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「な、何だよあれ!!」
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そう、ヒナキちゃんの後ろには無数の触手がうごめいていた。
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細いものでちょっとした糸くらい、太いもので大人の女性の腕くらいはある。そんなものが数多
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く、ひしめいていた。
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その触手が良夫めがけて向かってくる!だが―
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「だめよ。その子には手を出さないで」
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そういって右手を振りかざした瞬間、触手の一部が弾け飛び、肉片が空中に掻き消えた。
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「ど、どうなってるんだ?」
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「この子達は・・・子供たちの精気を糧とするバケモノ。何らかの拍子でこの町に来たみたいね」
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うろたえる良夫を尻目に、触手たちを睨みつけながら答えるヒナキ。
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「私が無理やりにでもあの子を空き地から追い出せば・・・あの子は・・・。あの子はこの子達に捧げ
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るつもりは無かった。けど・・・あの子、私を蹴り飛ばして、ボールを追いかけて・・・」
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そういう・・・ことだったのだ。
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たまたまボールが、ヒナキちゃんのいる空き地に入ってしまった。彼女が警告しても入ろうとし
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た。何とか止めようとしたが、腹を蹴られ悶えてるとこを進入されてしまい・・・彼は犠牲者と変わ
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った。
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「だから・・・せめて私が!!」
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「自分ばっか責めるなよ!・・・俺にできることは?」
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「無いわ。私にしかできないわよ、これは・・・」
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良夫の言葉に反論してから彼女はバケモノのところへ向かい、手を伸ばす。
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せつな、閃光があたりをほどばしる。
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目をあけたとき、そこにはヒナキちゃんがいた。ただ、彼女が薄くなっていた。
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「少しの間、お別れね。今度あったときは遊びましょう、サッカーで」
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その微笑みはどこか優しい印象があった。そして、彼女は消えた。
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「な、なんだよ!俺をそんなに泣かせたいのかよ!」
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ただ、叫ぶしかなかった。そうしなければ涙が出てくるから。
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そんな彼を見つめているひとつの青い影。彼女は優しい目で良夫を見守っていた。
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「こういう風に彼を守ってやりたかった・・・。どうして人を闇に誘う仕事をしなきゃいけないのか
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しら。残酷じゃないの、閻魔様?本来なら、私、彼の守護霊になるはずなのにねぇ」
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