「明美……………」
まただ。この頃、あの人の声がかすかにだが聞こえるようになった。
七不思議の会合で話をして以来だった。
一体何を望んでいるのかは残念ながらわからない。一体何を望んでるの。
いつからあなたは、近くて遠い存在になったの。そして…。
「どこなの……?答えてよ、裕也さん」

不安のあまりにベッドから飛び起きた。
うなされたのか、シーツが少し汗で湿っていた。
裕也さんの姿が見えそうになったこと以外、夢の中身をおぼえていない。
逢いたくても逢えないこのもどかしさは、いつになれば消えるのかしら。
傍にいるのに、どうしてそんな思いがするのかしら。
何度眠っても何度起きても変わらない日常。
あなたも私の傍でずっと“生きてる”のに。ねぇ、どうすればいいの?
不安が次第に大きくなっている。
傍にいるにも関わらず寂しく感じるもどかしさは、どうすることもできな
い。もっと私を縛り付けて欲しいのにそうしてくれない。
どうして。

そして、今日も眠りにつく。
いつもと変わらない夜がくる、そう思っていた。けど、今日は違った。
「明美、こっちだ……」
声のする方へ向かって歩いてみる。その度に足が重くなっていく。
まるでそこへ行くことを拒んでるかのように。行かせて欲しい。
そこに、生きていた頃のように優しく微笑むあの人がいるかもしれないん
だから。
「こっちだ……」
甘く優しいマーマレードの声が、直接、私の頭の中に響く。
もし、このまままっすぐ行って私も死んだら… 私は構わない。
親も「裕也さんのところへ旅立った」としか認識しないだろうし、何より
私はそれを望んでいた。
触れられそうで触れることのできない人のもとへ行けるなんて、素敵なこ
とじゃない。
「こっちだ……」
光は段々強くなっていく。そこにあるのは地獄のようにおぞましい風景?
あるいは、臨死体験したとか言ってる人たちがよく口にするお花畑?
わからないけど行ってみたい。そこに裕也さんがいるのなら。

目は、醒めなかった。けど、死んでるわけじゃない。仮死状態だ。
私は寄りかかった、裕也さんの肩に。
単純じゃないけど、私は生きてるようで死んでる、そんな状態だった。
だから、こうしていつでも裕也さんに触れることができるの。
生きてるときより甘い香がする。
喜んでくれてるのかしら。裕也さんはこう囁いてくれたの。
「君は疲れている。だから、今は僕の傍にいて。気持ちよく目覚めるため
 に今は眠るんだ」って。



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