93:アカイクツ

夢を見てた。何の夢?って訊かれたら困るんだけど。
「いーちだん・にぃーだん・さーんだん・・・」
赤い靴を履いた女の子の夢。赤い鳥居の前にある石段の前で佇む私がいる。
その石段を登る女の子の後ろ姿を眺めてる。

「じゅーだん・じゅーいちだん・じゅーにだん・・・」
女の子は登るのを止めた。
「お姉ちゃん」
背中を向けたまま、ひと言こう言った。1回も後ろなんて見なかったのに。
いつから気づいてたんだろう・・・もしかして最初から?
周りは白い霧が掛かってて私しかいない。じゃあ、私に訊いてるのよね。
「なあに」
「お姉ちゃん、ここで願掛けしてた女の子の話を知ってる?」
「・・・知ってるわ。昨日の夜に聞いたもの」
「その子の顔って・・・見たくない?見せてあげようか」
「見たいわ」
考えもせずに私は答えた。和子おばさんも、良夫も、泰明さんも・・・原因は、
あなたとおばあちゃんがここで起こした些細な事。
おばあちゃんの顔は知ってるけど、あなたの顔は知らないわ。
「言うと思った。・・・でも、見せてあげない」
女の子はまた登り始めた。どんどん姿が小さくなっていく。
そして・・・霧に包まれて見えなくなった・・・。

「葉子、大丈夫〜?アタシもあまり元気じゃないけど」
「由香里姉さん・・・」
目が覚めた。旧家の天井と、覗き込む由香里姉さんの顔がある。
「ケーサツやマスコミとかが来てうるさいの。インタビューも受けちゃった、
 あはは。でも葉子はそっとしておくように言っておいた。アタシって偉い
 でしょ」
「くすっ、由香里姉さんったら〜」
私がちょっと笑ったら、由香里姉さんは安心した表情をしてくれた。
「それじゃ、ね。今日はゆっくり寝てる方がいいよ。顔色よくないから」
襖を閉めながら静かに部屋を出て行く。
私は・・・また夢を見ることにする。今度は、現実を忘れる夢を・・・見たい。


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94:トランプ

葉子「せっかく泰明さんと会えたけど、みんな7回忌の準備で忙しそう・・・」
良夫「しょーがないって。葉子ネエ、俺たちはトランプでもして遊んでよう
   ぜ」
葉子「トランプ?ババ抜きならいいわ」
良夫「新堂だってトランプで遊べるゲームの多さを語ってただろ。せめてポー
   カーやろうぜ。ババ抜きなんてダッセーよ」
葉子「ババ抜きなら相手するわ」
良夫「・・・ブラックジャックとかは?」
葉子「ババ抜きがいいな」
良夫「・・・死者の呼ぶ館で遊べたラスト・ワンなんかも面白いんだけど」
葉子「百歩譲って神経衰弱でもいいわよ」
良夫「葉子ネエそれしかできないのかよ。俺より子どもだな」

葉子「はい、神経衰弱は私の3連勝ね。良夫は頭使うの弱いわね〜」
良夫「んだよ、ちょっと自分が勝てるからって!」
哲夫「おいおい何を騒いでるんだ。廊下まで聞こえるじゃないか」
葉子「良夫がゲームで勝てないからってうるさくて」
哲夫「お、トランプか。自分もヒマだしぜひ仲間に入れてくれ」

葉子「・・・ババ抜き、私の1位が23回目ね。哲夫おじさん最下位40回目」
哲夫「おかしいな。2人してズルしてるんじゃないか?」
良夫「おじさん表情にすぐ出るんだよ。ポーカーフェイスの練習から始めな
   よ」
哲夫「そうか!自分は大自然を冒険して、素直な心を身につけたからな。
   葉子ちゃんたちと違って隠し事ができないんだ!」
葉子「無視無視。それにしても良夫、このトランプどこで手に入れたの」
良夫「珍しいだろ【晦】のトランプなんて。謎オヤジが売ってたんだ」
葉子「ジョーカーが和子おばさんだね。あんたコレ、厳重に管理しなさい
   よ・・・」


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95:あなたはエンジン

和子「葉子ちゃん、ダンス会の見学に来ない?真島茂樹さんが来るのよ」
葉子「マツ○ンサンバの振付師ですか!?よく呼べましたね」
和子「ダンス会の風間さん、太いパイプを色んな所に持ってるらしいわ」
葉子「パイプというか奇怪な能力って感じがしますけど。せっかくだから行き
   ます」

≪ダンス会≫
〜〜〜マ○ケンサンバ(ダンス)〜〜〜
葉子「ふぅ〜、たくさん踊っちゃいました♪」
和子「ステップも完璧に覚えたから、いつでも踊れるわねぇ」
良夫「母ちゃん、葉子ネエいるか?」
葉子「あら良夫。今日のダンス会はもう終わったよ」
良夫「俺はダンスに興味ねえっつーの。カサ持って来たんだよ。雨降ってんだ
   ぜ」
葉子「良夫のクセに気が利くじゃない。なんか生意気ぃ」
良夫「ジャ○アンかよ葉子ネエ・・・。フツーは誉めろよな」
葉子「アンタを誉めるなら、直立するレッサーパンダを誉めた方が100倍
   マシよ」

葉子「ただいま戻りました〜」
泰明「葉子ちゃん。雨に濡れずに済んだかい」
葉子「ええ。良夫がカサを持ってきてくれたので」
良夫「さっき生意気って言ったのに・・・。レッサーパンダを誉めた方がマシと
   か・・・」
哲夫「おう、良夫君もあの映像見たのか。あのパンダは珍しいぞ!」
葉子「哲夫おじさんだって【現代に生きる猿人】でマスコミに出れば?」
哲夫「うん?エンジン?面白いこと言うなあ葉子ちゃん。
   自分は何のエンジンが似合うか考えてくれ。がっはっは!」
葉子「皮肉が通じないや。なんかムカつくぅー!」
(↑超尿力でTVに出れると言われたのを根に持っている)


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96:キャンプ

哲夫「山は広いな〜大きいな〜っと」
良夫「おじさん、歌ってないで飯ごうでゴハン炊いてくれよ」
哲夫「がっはっは!山に来ると血が騒ぐんだ。わかるか良夫君!?」
良夫「いつでもどこでも沸騰状態なんじゃねえの」
葉子「ちょっと良夫。野菜をこんな角ばって切らないで」
哲夫「葉子ちゃん。今日の昼食はどうするんだい?」
葉子「山にキャンプに来たら、定番メニューのカレーにしようかと」
哲夫「それなら1度【ヘボ飯】を食べてみないか?」
葉子「何ですか・・・それ」
哲夫「ヘボって黒スズメ蜂のことを指して−−」
葉子「それ以上聞きたくないです。無難にカレーでいきますから・・・」

由香里「葉子ー、川釣りって面白いね。けっこう釣れたよ」
和子「私はあまり釣れなかったのが残念だわ」
葉子「昼食の準備もだいぶ整いました」
由香里「あれ、他のみんなは?」
葉子「泰明さんは夜の肝試しコースの下見に行ってます」
由香里「プロデューサー根性を見せてるねぇ」
葉子「哲夫おじさんは今頃、恋人の山の中を存分に疾走してると思います」
由香里「野生動物かい、あの人は・・・」
葉子「良夫は自由研究のために昆虫採集に行ってて」
和子「毎年それなのよ、良夫ったら。家の周りでも十分にできるのに」
葉子「正美おばさんはバンガローのチェックをしてます。清潔かどうかとか」
由香里「ホントに神経質だよね。だったら来なければいいじゃん」

−夜−
葉子「そんなに手をつかまないでっ」
良夫「葉子ネエ、怖くないのかよっ」
葉子「怖いよりイライラしてるの。アンタと肝試しに行かないといけないの
   が」
良夫「ジャンケンだから仕方ねーだろ。それに・・・葉子ネエ知らないのか?」
葉子「何が?」
良夫「このキャンプ場、稲川○二が泰ニイに教えた恐怖スポットなんだぜ」
葉子「え゛・・・ひっどーい!私そんなの聞いてないわよ!?」
良夫「実際、ここら辺で首吊りとかもあったって、俺も後で聞いて・・・」
葉子「泰明さんのバカー!何かあったら恨んじゃうもん!」

由香里「今、葉子の叫び声が林から聞こえてきたような・・・」
泰明「良夫君が話したんだろう。怖がってもらえてよかった、ははっ」
正美「春休みの七回忌で耐性がついたと思ったのですけど」
哲夫「葉子ちゃんたちは子供だからな。早く自分の番が来ないかな、がっはっ
   は!」
由香里「楽しみだよね〜。この先の滝は自殺名所って言うし」
↑怖い体験に慣れた人達の図
−キャンプ場へはよく確かめて行きましょう−


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