待ってるわ
朝、私は校門にいた。 いつもならさっさと校舎に入るけど、今日は違う。 あの人が来るのを待っているの。 一人の男子生徒が校門をくぐろうとしたとき、私は言った。 「修一さん。待ってたわよ」 今日はバレンタインデー…。 去年までは興味がなかった、くだらない行事。 でも、今は違う。 それは、修一さんに出会ったから。 「岩下さん…。どうしたんですか?今日、何か約束してましたっけ?」 「あなたに用事があるから。今日は一緒に帰りましょうよ」 「いいですけど。それじゃあ、帰りに校門で」 彼の名前は坂上修一。昨夏の七不思議の会で知り合ったの。 最初はその会へ行くのに、乗り気はしなかったわ。 だって新聞部の取材のために怖い話をしても、私には何の得もないじゃない。 だけど、それがきっかけで修一さんに会えたのだから、結果的には良かったわ。 修一さんはまだ手を振っている。私も振りかえし、そして微笑んだの。 教室に入ったら、まだ誰もいなかった。やっぱり静かな教室は最高ね。 私はスケッチブックを取り出すと、修一さんの絵を描きはじめた。 そのとき、誰かが教室に入ってきた。 「岩下っていっつも早いよな」 クラスの男子だった。私は無視して、絵を描き続けた。 「おい、無視してないでなんか言えよ」 …うるさいわね。私は絵が描きたいのよ。 「そういや今日はアレだよな。バレ…」 「黙りなさい。殺すわよ」 「ご、ごめん…」 そう言うと、また絵の続きを描き始めた。 かっこいい修一さん。 優しい修一さん。 私は修一さんが好き。 時間が経つにつれ、教室が賑やかになってくる。 どうしてこんなにうるさいのかしら?絵が描けないじゃない。 どうやら、女子がクラスの男子にチョコを配り歩いてるみたい…。 くだらない。私は修一さんだけに愛を捧げるわ。 そして授業が始まった。 今日は美術があるから、また絵を描くことができるわね。 すべての授業が終わり、私は校門へ向かった。 そこには、すでに修一さんが待っていた。 「帰りましょうよ」 「そうですね」 帰る途中、何も話してなかったけど幸せだった。 そして、修一さんとの別れ際に私は言ったわ。 「私、修一さんのこと好きなの。付き合ってね。真剣に考えてほしいの…」 修一さん、言葉に詰まってるみたい。 なんて答えてくれるのかしら…? 「僕、早苗ちゃんのことが好きなんです。だから…」 「えっ…?」 なんで? 修一さんは優しいはずでしょ? 嘘をついてたの……ひどい人ね。 「私は嘘つきが大嫌い!」 そう言いながら、カッターを取り出した。そして刃を出す。 「な、何ですか。嘘なんてついてません。勘違いしてるよ!」 なんて人。また嘘をつくなんて…。 もう、いいわ。 ザクッと嫌な音がして、首筋から血を流しながら修一さんは倒れたわ。 「い…わし…た…さん」 そう言うと動かなくなった。 どうやら、死んでしまったみたい。 でもいいの……待ってるから。 あなたが生まれ変わってくるまで。ずーっと、ね。 あとがき:ひゃ〜。初めてのSSだ。読んでくださったみなさんありがとう。      次回作…出すかな?


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