とびきりの夜での想いは


また“狩り”をした。
足下に横たわる死体が、
光を無くした眼で僕を見ている。
僕は血に濡れたナイフを棚に隠すと、
死体に一瞥もせず、水道で手を洗い始めた。
……。
これで何人目だろうか?
僕たち「殺人クラブ」の毒牙に掛かった人間は。



あの日。
僕は「殺人クラブ」のエモノとなった。
あの時のメンバーは七人。
全員が僕を狙い、殺そうとした。
僕は必死だった。


――死にたくない。


その思いだけで、僕は何人もの人間を殺した。
だが、最後の最後というところで、
僕の疲労と恐怖は臨界点を突破し、
「殺人クラブ」相手に白旗を揚げた。
「待って下さいっ!僕、やっぱり殺人クラブに入りますっ!」
僕は「あいつ」にそう懇願した。


演技のつもりだった。


なんとか隙を見つけて逃げだそう。
そう考えて、僕は最後の博打を打った。
すると、「あいつ」は僕にカプセルを見せた。
「今度は毒じゃないぜ」
その言葉を信じて、僕はそのカプセルを飲み干した。


その日からだった。


周りが変わって見えるようになったのは。


肩をぶつけた。

変な目で見た。

僕のことを無視した。

そんな何気ないことが、どうしようもなく憎く思えた。
そして――――。






殺した。




理由は忘れた。
でも、今でもそのシーンだけは鮮明に覚えている。
僕と同じクラスの女の子だった。
夜。僕は彼女を旧校舎に呼び出した。
「相談したいことがあるんだ」
そんなことを言ったんだと思う。
彼女は時間丁度に来た。
様子をうかがっていた僕は、
頃合いを見計らって、出て行った。
「ごめん、待ったかな?」
「ううん。それより話って何?」
彼女が僕にそう話しかけた。
僕はズボンのポケットに手を入れた。
「ちょっと……こっちに来てくれる?」
そして彼女が僕に近づくと、
ナイフで彼女の首を一気に切り裂いた。

あの時の表情は今でも忘れられない。
驚愕と激痛に顔をゆがめたあの表情。

酔いしれた。

殺人という美酒に、
僕は例えようもなく酔っていった。

その日から、僕は次々に殺人を楽しんだ。
大抵はナイフで殺し、飽きてくるとゲームにする。

あの日、僕が課せられたあのゲームを。





今日も僕は獲物を探す。
殺しの快感を忘れられないから。

「坂上様!」

僕を呼ぶ声に振り返った。
そこには「殺人クラブ」のメンバーの一人が立っていた。
「あ、もう終わってしまったんですか」
そいつは、ナイフ片手に残念そうに死体を見下ろす。
「どうしたんだ?」
「いえ、今度は俺にもやらせてくださいよ。
 最近誰も殺ってないんですから…」
「わかってるよ。明日はお前の分も残してやるよ。
 それじゃあな」
僕はそう言ってそいつの横を通り過ぎた。
そいつとすれ違ったとき、耳元で呟く。
「死体、片づけておいてくれよ―――日野」
「はい………坂上様」
僕を狂わせたこいつも、今となっては僕の手足さ。
そして、いずれこいつも………。

僕は、また明日から始まる殺人ゲームに
胸を高鳴らせながら、静かに学校を出て行った。



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