あれから一ヶ月は経っただろうか。
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僕は、新聞部の先輩の頼みで「七不思議」の企画を担当した。
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あの日。
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六人の人に集まってもらい、僕はいろいろな話を聞いた。
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悪霊に取り憑かれた生徒の話。
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旧校舎にまつわる怖い話。
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桜の木の呪いの話やその他たくさん。
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僕は、記事を書き終えて、ふと企画書を見る。
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「みんな、心の中に悪霊が棲んでいるんだ」
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自分の書いたその記事を見て―――ゾッとした。
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何故だか、背筋に冷たいものが走る感触。
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それは、次の日になってよりはっきりとしたものになる。
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その日。僕は先輩にその企画書を提出した。
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すると先輩は、こんな恐ろしい事を口にしたのだった。
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「坂上。この学校で七不思議を調べるとな。
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……悪霊に憑かれるんだとよ。学校に棲んでる悪霊にな」
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心の中に、悪霊は潜む
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僕は、ナイフを片手に女性を脅していた。
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放課後の、暗くなった新聞部の部室で。
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「……。なんのつもり?」
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やはり、彼女は驚くそぶりもない。
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でも、こんなことは…予想していたことだった。
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僕は彼女を壁に押しつけると、ナイフを首に突きつけた。
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「抵抗しないで下さい」
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僕は彼女にそう言った。
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「抵抗したら、容赦なくヤりますから」
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脅しではなかった。
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僕は、彼女がもしこの場で厄介な行動を取れば、迷わずナイフを首筋に
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突き立てただろう。
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もっとも、彼女はその程度で崩れる女ではないが。
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「あなたは、私をどうしたいの?」
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「…。さあ?僕にもよくわかりません。だけど…許せないんです」
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僕は彼女の目をじっと見て言う。
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…やはり彼女は、なんの動揺も見せない。
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「貴女のような人が、あんなふざけた人と……」
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僕は自分の手が震えているのがわかった。
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怒りで、ぶるぶると震える自分の手。
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それは、何か別の生き物のように思えた。
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「…。風間のこと?」
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「ええ。先日、福沢さんに聞いたんです。それまで、僕はちっとも知りません
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でしたよ。…どうも僕はその方面に疎いようで」
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「そこまで知っているのなら、どうしてこんなことを?」
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「…。許せないからと、さっき言ったじゃないですか」
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僕は彼女を転かし、床に寝転がした。
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その上からマウントポジションを取り、ぐっと喉にナイフを当てる。
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「とにかく、僕は………。岩下さん、あなたを抱きます。わかりましたか?」
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「…。大体は、わかったわ」
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彼女―――岩下明美はそう言うと、僕をじっと見つめた。
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冷たい瞳で、僕を。
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「それでもどうして?あなたみたいな人が、こんなことをするなんて…」
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「…呪われてたんです。あの七不思議の会合は」
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「……」
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僕はゆっくり首を振った。
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「…いや、そんなことどうでもいいじゃないですか」
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それは、出来るだけ考えないようにしていることだった。
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……いや、考えたくない、といった方が正しいかもしれないけど。
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「それより…岩下さん。抵抗しないんですか?自分の決めた相手でもない
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僕に、黙って抱かれるつもりですか?」
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岩下さんは、僕を冷たい目で見続けた。
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「……どうせ、抵抗しても無駄よ。わたしは女なんだから…」
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「…そうですか」
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僕はナイフをポケットに入れた。
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「だけど、わかっているの?」
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「……何をですか?」
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僕は、彼女の冷たい視線に、なんの感情も湧かない自分に少し恐怖した。
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「“事”が済んだら、あなたは死ぬわ。わたしか…風間に殺されるでしょうね」
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「…もう、覚悟していますから。僕は、あなたを抱ければそれでいいんです」
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僕は暗闇の中で、彼女を抱きしめた。
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暗い、暗い新聞部の部室で。
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恐らく一週間後には、僕はこの世にいないだろう。
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それでも――――僕は彼女が欲しかった。
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抱きたかった。独占したかった。
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全ては狂気。
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僕は、狂気の中でずっと溺れているんだ。
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それこそ死ぬまで……。
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いや、きっと僕は死んでも尚、溺れているんだろう。
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終わらない狂気の中で。
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それが、七不思議に関わった者の末路なんだから……。
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fin.
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