神の声を聞け!



やあ、君かい? 僕の話が聞きたい一年生っていうのは。
ふーむ。少し気乗りはしないんだけれどねえ。
なにせ僕の話す怪談というのは本当に危ないんだよ。
みんなが知ってるようなありふれた話じゃない。
本当に危ない話なのさ。
……それでも聞きたいって?
なに、風間さんはこの学校で一番怪談に詳しいと聞いた?

はっはっは。そこまで言われたら仕方が無いな。
君、なかなか見所があるよ。
けどねえ、君の心意気がどの程度のものなのか。僕にはまだわからない。
どうだい。もしだよ。僕の話を聞いたために
君が死んだとしよう。
……なに、勝手に殺すな?
……いちいちうるさいね、君は。人の話は最後まで聞きなさい。
そんなことじゃ女の子にモテないぞ。
もっとも、今のままでもモテそうにはないけど。
……なんだい、その目は。いいんだよ、僕のことが気に入らないのなら。
そのかわりになーんにもしゃべってあげないから。
……わかったよ、そんなすがりつくような目で見ないでくれ。
君なんかが捨てられた子犬のような瞳するんじゃないよ。
そういうのは似合う人しかしちゃいけないんだよ。たとえば、僕とか。
……ほら見なさい。また話が脱線しちゃったじゃないか。
君はもう黙ってなさい。金魚のように。
いいかい? 僕の話を最後まで聞くんだよ。
そして、僕に逆らったりしないように。いいね?

さっきも言ったけど、僕の話は本当に危ない。
呪いがかかるんだよ。聞いた人にはね。
だから、この話を聞いた場合、もしかしたら君は本当に死んじゃうかもしれない。
それでも、聞きたいのかい?

……よし、わかった。そこまで言うのなら話してあげよう。
けれどね。君の覚悟を見せてくれ。
じゃあ……とりあえず、財布を出してみようか。
……なに? どうして財布がいるのか?
……君は黙って僕に従いなさいと言ったばかりでしょうが。
ほら早く出して。中身を抜いたりしないよ。
……はい、よく出来ました。

それじゃあ始めようか。
財布というのは不思議なものでね。見る人が見れば、その人のすべてがわかっちゃうんだよ。
もっとも、そのレベルに達するにはかなりの努力と才能が必要だけれどね。
その点僕なら完璧だ。安心して君の事を占ってあげられる。
う〜むむむむむむ……。
どうやら、君は最近少し疲れているようだね。何か気がかりなことはないかい?
財布にそう出ているんだよ。ほらたとえば……。
……なに、なんでお札を取り出すのかって?
……君、僕の話を最後まで聞きなさいって言ったでしょう。
これで何度目だと思ってるんだい。いい加減温厚な僕も怒っていい頃だ。
いいから君は僕のことを信用して、最後まで話を聞くんだ。
次に水を差したら君に「トリ頭」ってアダ名をつけるからね。
三歩あるけばモノを忘れるトリ頭。
ぷっぷぷぷ……。
ぷはーっはっはっは! いやぁ、ぴったりじゃないか。
明日からそう名乗りなさい。うん、それがいいそれがいい。

……なんだい? 今、お札をポケットに仕舞ったでしょうって?
……。……。
わからない人だねえ、君も。なにも僕は君のお金をネコババしようなんて
思っていないよ。これから僕の話は始まるんだよ。
えーっと、いいかい? まず、君の財布に入っているお札を全部出そう。
うん……これでよし。まず、一万円札が一枚。
それで五千円札が二枚、千円札が四枚入っている。
……君、見かけによらず結構お金持ちだね。
まぁ、それはいい。しかし、これはとても危ないよ。
どうしてかって? ……よく考えてみてくれ。
千円の半分の枚数、五千円札があるでしょう? 
そして、一万円札は五千円札の半分の枚数だ。
これは、霊力を増してしまう、とてもいけない組み合わせなんだよ。

むっ! そう言っている間にももう霊がこの部屋に集まってきている!
感じないかい? この部屋にすさまじい数の霊が漂っているよ。



(パン! パン!)



む! ラップ音だ。でも慌てちゃだめだよ。
慌てたら、その瞬間に霊は僕らの身体に入り込んでしまう。
すばやく、そして静かに徐霊しなくてはいけないんだ。
よし! ここは僕に任せなさい。

はんにゃらまっかほんにゃらまっか……
ふんだばだった……はーっ!

……よし。これで霊はいなくなったはずだ。
君もこんな危ない財布を持っていてはいけないよ。
この枚数は危険だからね。とりあえず、中間にあたる五千円札は
抜いておくことにしよう。

さあ、これで僕の話は終わりだよ。
実際に霊体験を経験したなんて、君はすごく運がいいよ。
また僕の話が聞きたくなったらいつでも僕の教室に来るんだよ。
もちろん、お財布は忘れずにね。
それじゃ、次の人どうぞ。……ふふふふふっ。


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