翌日、よひょうは町に赴きました。つうに織ってもらった反物を売るためです。
「なるべく高い値で売らないとつうとの生活は大変だからな…。」
そう胸に秘め、今暖簾をくぐりました。
「よくぞいらっしゃいました。…ってよひょうじゃないか。」
そう言って出てきたのは、最近店を継いだ若旦那(風間)でした。
「どうせまた二束三文の物を高く買えって言いに来たんでしょ?」
開口一番に言った人物は、番頭の女の子(鈴木由香里)でした。
この三人は昔からの知り合いで、よひょうも親友とは言えないがいいやつらだと思って
います。
「そんな、今回のはすごいぜ。おそらく今までのとは比べてはいけないと思うぜ。」
「はったりなんじゃないの?」
「そうそう。お前、たまにはったりかませる事あるから嫌なんだよなぁ。」
「まあ、そういうなって、見てみろよ。」
そう言って例の反物を取り出しました。
これを見て二人は極楽浄土に行けそうな位吃驚しました。
(ほ、本当によひょうが持ってきた物なのか?それにしてもとても質のいい布だ…。)
(こ、これをお殿様に献上したらかなりの額貰えるじゃないかい!!あわわわわ…。)
しげしげと反物を見つめる商人二人。まるで某鑑定人のようです。
そして、意を決したのか若旦那はよひょうにこう告げました。
「これは素晴らしい!!よし、30両やろう!!その代わりあと1つ同じ物を持って
 こいよ!!そしたら利益の3割をくれてやる!!」
「い。いいのか!?」
声は嬉しそうにしているよひょうですが、顔が無表情な事から内心穏やかでは無いよう
です。
(ど、どうしよう。いくら美味しい話といえども、つうをこれ以上やつれさせる訳にも
 行かないしな…。)
どうも、いとしいつうのことを考えると乗り気にはなれません。
そんな事を気にしないのか、番頭はひとつのことを聞きました。
「何悩んでるのさ。そんなの即決すればいい事じゃない。」
「だけど…これ、妻が作ったんだよ。だが完成したときにはかなりやつれてて…。」
『あのババアが!?』
二人はよひょうに妻が出来てること、そしてどのような姿をしているのかも知っていま
す。だからこそ、彼女が作ったという事実が信じられないようです。
「信じられない…あのババアにそんな才能があるなんて…。」
「だが、そんな事を気にしている場合じゃないぞ。」
「そうよ!こんな美味しいものを作らせない人間はいないよ!!」
あまりといえばあまりの発言によひょうは絶句してしまいました。
(確かに金は欲しい…。でもつうが……。)
「ねぇ、よひょう。あんた、何かあるのかい?」
「え、何かって?」
「妻とだよ。あの婆…じゃなかった。奥さんに何か言われているのかい?」
そう訪ねてきたのは番頭でした。
「いや、何も…。」
「じゃあ別にいいじゃないか。大丈夫だよ。あんたの奥さんいい人だから事情を話せば
 解ってくれるよ。」
よひょうはしばらく考えました。つうを優先するか、己の欲望を優先させるか。
そして、結論が出ました。
「解った…。もうひとつ織るように言ってみるよ。ただし、あまり無理はさせないから
 な。」
「へへっ、それでこそよひょうだ。」
なんだかよく解らない事を言う若旦那です。しかし、若旦那は次のようにも述べました。
「それと…たまには忠告を破ってみるのもいい。そうすれば人生は変わるぜ。」
この後、よひょうは30両貰いましたとさ。


「…というわけなんだ。織ってくれるかい?」
やばい事は除いていきさつを、そして依頼をつうに話しました。
「そう。じゃあ織ってあげるわ。その代わり、織っているところを覗いちゃダメよ。」
よひょうが頷くと、さっそくつうは奥の部屋に引っ込みました。
(どうして覗いてはいけないんだ?たかが機織りなのに…。)

それから三日三晩。つうは機を織りました。そのたびにつうは痩せ衰えていきます。
さすがにその様子に耐えられるよひょうではありません。
(やっぱり何かあるんだ。心配だし、一体何をやっているんだ?)
ちらちらとつうが機を織っている部屋を見ながらよひょうは心中でつぶやいていました。
しばらく考え込んでいるうちによひょうの頭にある結論が出ました。
(やはり不安だ。少しだけ覗いてみよう…。)
ゆっくりと、ゆっくりと、足音を立てないようによひょうは部屋に近づきました。
そして少しだけ障子を開けた先には______

かたん、かたん…

リズミカルに、そして自らの羽根を毟りながら機を織っている鶴がいるではありません
か!!しかもその鶴は以前助けた鶴です。
その衝撃的な光景に、よひょうは思わず見入ってしまいました。
彼が眠りについたのは、そのしばらくあとのことでした。


翌日の朝、布団にはつうの姿がありません。その代わり一通の手紙がありました。
手紙にはこう書かれていました。
「約束、破ってしまったのですね。私はあなたの事を忘れません。隣の部屋に反物を2
 個置いておきます。片方は私だと思って大切に取って置いてください。今までありが
 とう。___つう」
あまりの悲しさに思わずよひょうは外に出ました。
朝日に照らされ輝く銀世界に鶴が一羽、優雅に舞っていた。



その暫く後、彼はただなんとなく町をうろついていました。少しは傷が癒えたようです。

どんっ!

「イタタタタ…。」
「あ、大丈夫ですか?」
見ると、その子は可愛い顔をした町娘(前田葉子)でした。
その可愛らしさによひょうは赤くなりました。…と、その時!!
クエェェェェ!!ばさささささ…

どげしっ!!

何と鶴がいきなしよひょうにフライングアタックを食らわせました。
浮気はダメよ、よひょうさん☆


めでたしめでたし。


前のページに戻る