あっ・・・また誰かが来た・・・。 でも、違う。彼じゃない・・・。 いったい何人の人がこの校門をぬけていったかしら? 同じ人もいた。知らない人もいた。見知った人もいた。 でも、彼は現れない。 ここで約束をしているはずの彼が来ない。だから、私はここにいる。 もう何度聞いただろう・・・? 下校放送の音楽が流れる。私はわずかに涙を流した。 どうして来てくれないの・・・? 私と約束したじゃない・・・。 新堂さん・・・。 「・・・ねぇ?」 その声が聞こえたのは、黄昏が夜の闇へと移り変わる、そんな時間だった。 振り返ると、そこには男の子が立っていた。 でも、彼は新堂さんじゃない。 私は背中を向けた。 「ねえ、聞こえないの?」 また、その声が私を呼んだ。私は振り返らなかった。 「君、ずっとここにいるよね?」 男の子は、背中を向けたままの私に声を掛ける。私はもう一度彼を見た。 飾り気のない、ごく普通の男の子。 少し気弱そうだけど、優しい目をしてる。 「君は、ここで何をしているの?」 私は答えた。 「待ち合わせをしているの」 ・・・そう、私は待っているの。 ここで会おうって約束をしたから。だから私は彼を待っているの。 彼は、哀しい顔になった。 「・・・あのさ・・・」 言いにくそうに、彼は口を開いた。 「君は・・・もう・・・」 その先は・・・聞こえたけど、聞かなかった。 ただ、信じたくなかっただけ。 「君の待ってる人も、ここには・・・来ないよ・・・」 ・・・うそよ。 だって、約束したんですもの。 私は彼が来てくれるまで、ここで待ってるって約束したんだもの。 私は、また彼に背を向けた。 彼は何も言わずに、校門を通りすぎていった・・・ 「ねえ」 彼は今日も現れた。哀しげに笑って。 「・・・どうして、そんなに哀しい顔をしているの?」 私は尋ねた。 彼は答えた。 「君が、可哀想だから」 「君には、帰るべきところが在るんだよ?」 私は答えた。 「でも、約束したから」 彼は言った。 「その人は、もう先に行ってるよ?」 私は首を振った。 「・・・嘘よ」 だって、約束したから。ここで会おうって。 そして彼は、校門を通っていった。 今日は、誰もここを通らなかった。 私は待ち続けた。 日が暮れ、沈み、夜の闇に学校全体が包まれたとき、 その声が聞こえた。 「倉田」 私は振り返った。 そこには、私がずっとずっと待ち続けた、新堂さんが立っていた。 「新堂さん・・・!」 私は、彼の胸に飛び込んだ。 彼は私を抱きしめた。 「長いこと・・・待たせちまって悪かった。一人で先に行って悪かった・・・。 ごめんな・・・倉田・・・」 どうして新堂さんが謝るの? 新堂さん、約束を守ってくれたじゃない・・・。 その時、彼の声が聞こえた。 「倉田さん、ほら、もう行きなよ」 見ると、そこには、いつも来ていた彼が立っていた。 今日は、優しい笑みを浮かべて・・・。 新堂さんが、私の手を引いて歩き出した。 やっと、帰れる。私の帰る場所に。 私は振り返って尋ねた。 「君の名前は・・・?」 彼は、私に手を振りながら答えた。 「サカガミ・・・」 終 |