坂上君の闇
最近考えるようになった。 僕は一体誰なんだろう・・・・・。 僕は一体なんなんだろうか・・・・・。 それを考えるようになってから、夢を見るようになった。 いつも変わらない同じ夢。 暗い闇の中に僕はいた。 周りを見ても誰もいない。 なにも見えない。 僕は一体・・・・・・。 「お前は、俺の影さ」 誰かが言った。 「誰?」 僕の前には・・・・・僕が立っていた。 「俺か?俺はお前だよ。坂上修一さ」 坂上・・・・・修一・・・・・・。 「坂上修一・・・・僕も坂上修一だ」 「だから、お前は俺の影なんだって」 「影?」 「そう。お前は坂上修一の影さ。本当の坂上修一は、俺さ」 「・・・・・・」 僕は、なにも言えなかった。 「これからは、俺が坂上修一として外の世界で生活するからな。  お前は、俺の変わりにこの世界に住んでもらう」 「この世界って、この闇の中に僕はいなくちゃいけないのか?!」 そんなのは嫌だ。 このなにもない世界で生活するくらいなら、いっそ死んだ方がまだ マシだとまで思った。 「俺がお前の代わりに、どんな想いでこの世界にいたと思ってる。  俺は15年もこの世界にいたんだぞ」 「僕は坂上修一だ!君が僕の影なんだ!!」 僕は自分で何を言っているのか驚いた。 「お前、最近自分は誰なのか・・・なんなのかを考えるようになった  よな?」 「・・・あぁ」 「お前がその事を考えた時点で、この世界への道が開けてしまった。  お前が自分の存在を考えたから、ここで俺に出会った。すべて、  お前が悪いのさ」 「そんな・・・・・・・・」 僕は肩を落とした。 「じゃぁな影。これからは、俺がお前の代わりに外の世界で生活して  やるよ。お前は一人でがんばってな〜♪」 「・・・・・・・・・」 僕は、これから一人でこの世界にいなくちゃいけないのか? もうあの世界で暮らす事は出来ないのか? そう思うと絶望的な気分になった。 「じゃぁな♪」 ニヤニヤしながらあいつが言う。 「待ちなさい!」 僕の後ろから声がした。 いきなり暗い闇の世界が、パッと明るい光の世界に変わった。 「またお前か・・・」 「誰?」 「うふふ。わかってるじゃない」 僕の後ろには、一人の少女が立っていた。 たぶん、歳は僕と同じくらいだろう。 「何しに来たんだよ」 「もちろん、あなたを外の世界に出さないために来たのよ。修一君、  あなたは早く元の世界に戻りなさい」 「戻るって・・・どうやって?」 僕は、何がなんだかわからなくなっていた。 「あなたは、どうしてこの世界に来てしまったのかわかるかしら?」 「わからない・・・・。僕は何故、この世界に来るようになったんだろう  か・・・?」 「クックック。それはお前が外の世界に飽きたから、疲れたから、  この世界にやって来たんだよ」 あいつは笑いながら言った。 「あなたは黙ってなさい。修一君。あなたは自分は誰なのか、自分は  なんなのかを考えるようになったわよね?」 「えぇ」 「それが原因よ」 「・・・どういう意味?」 「あなたは自分の存在を疑った。そしてあなたは、毎日それを考える  ようになった。考えれば考えるほど、あなたよりも『影』であるは  ずの彼の方が強くなっていったの。それで、今は彼の力の方が強く  なっちゃって、あなたの方が『影』って言われるようになったのよ」 「・・・・・・僕は、どうやったら帰れるんですか?」 「クックック。だから〜お前は、もうこの世界から出られないんだよ」 ・・・・あいつが言った。 「ちょっとぉ『黙ってて』って言ったのがわからなかったかしら?」 彼女がギロリとあいつを睨んだ。 「チッ!」 あいつがつまらなそうに舌打ちした。 「あなたが自分の事をわかればいいのよ」 「え?」 「あなたが、自分が誰でなんなのかを考えてしまったせいで、この世界  に来るようになったのだから、その疑問の答えを見つければいいの」 「僕は・・・坂上修一。僕は、坂上修一だ!お前の影なんかじゃない!」 「はっ?なに言ってんだ?お前は影さ!お前は坂上修一の影なのさ!!」 「影はお前だ。僕はもうこの世界に来ないぞ!僕はもとの世界に帰るん  だ!!」 「・・・・・帰れると思ってるのか?」 「修一君なら、きっと帰れるわ」 「さようなら」 「修一君、目をつぶって」 「はい・・・・」 僕は、彼女に言われた通り目をつぶった。 「次に目が覚めたら、あなたは自分の部屋のベットの上よ。もう2度と  この世界に来る事はないわ・・・あなたが疑問を持たない限りね」 「わかりました・・・。あの、最後にいいですか?」 「なにかしら?」 「名前・・・・教えてもらえませんか?」 「ふふふ。聞いてもすぐ忘れるわよ。私の名前は恵美。  ・・・それじゃ修一君・・・さようなら・・・・」 ・・・・意識が・・・・・消えてきた・・・・・。 ・・・・・目が覚めたら僕はベットの上にいた。 「帰ってこれたんだ」 時計を見ると、午前10時30分だった。 「ふぅ・・・学校に行くかな」 僕は、学校に行く支度をはじめた。 〜坂上君が消えたあとの2人の会話〜 「なんで邪魔したんだよ。いつもいつもお前はそうだ。あいつがいなくなって、  俺一人だけこの世界に取り残される・・・・。また一人になるじゃないか」 「一人?あなたは一人じゃないわ。だって私がいるじゃない」 恵美は不思議そうな顔で言った。 「・・・・お前は、いつもいないじゃないか」 「ふふふ。姿が見えなくても、私はあなたの近くにいるわ。それだけは覚えて  おいてね」 「もう・・・行くのか?」 「どこにも行かないわよ。ただ姿を消すだけよ。この世界だと、私は長時間  この姿を保てないのよ。ほら。光が徐々に闇に変わってきてるわ。そろそろ  消えなきゃ」 少しずつ・・・・恵美の身体が消え始めていた。 「そうか・・・」 「また、そのうちね」 「あぁ・・・・・・」 また俺は、暗い闇の世界で一人になった。 いつかまた恵美と会える事を信じながら、俺はこの闇の世界で生きていく・・・。

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