blank days.
まえがき。 人がひとりもいない学校の屋上を思い浮かべて下さい。 見ると、半分崩れた旧校舎が見える。 風だけが、そよそよと流れている・・・ そんな場所を、思い浮かべて下さい。 さぁ、目を閉じて。思い浮かんだら、目を開けて。 あなたには、「彼ら」が見えますか? もう夏休みなのに、学校はそこにある。 僕らが行かなくたって、学校は存在している。 だから僕らは学校があることを忘れてはいけない。 学校のことを忘れたら、どうにかなってしまうから。 旧校舎の取り壊し作業が始まった。 もうすでに半分はなくなっていた。 この工事に、霊媒師やら祈祷師やらが大勢呼ばれたのは、言うまでもない。 新校舎の屋上からは、旧校舎が見えた。 がらがらと崩されていく旧校舎を、ただ見ている男がひとり。 缶コーヒーを手に持ち、風を横顔に受けながらフェンスによりかかっている。 夏休みだというのに、わざわざ学生服を着た男。 新堂誠。 三年生。 きっと彼がここに来たことは、誰も知る術がないだろう。 ただ無言で、旧校舎を眺める。 その表情は悲しそうでもなく、嬉しそうでもなく、読み取れない、無表情。 その瞳は何も語らない。 ただ、旧校舎を見ている。 錆びた鉄の音がした。 屋上への扉が開いた音。 そこに立つのはひとりの男。 男は新堂と同じく学生服に身をつつんでいる。 中身の無い笑みをうかべるその男は、新堂を見つけるとそちらへ向かった。 手には、缶コーヒーが握られていた。 風間望。 三年生。 風間はまるで自分がそこにいかなきゃならないというように新堂の傍に座る。 フェンスを背もたれにして、足を力無く伸ばす。 何も語らず。 風間は缶コーヒーの蓋を開けた。 ひとくち含み、床に置く。 ことりと音がしたが、それも旧校舎の悲鳴でかき消された。 彼もまた、旧校舎を見ている。 その表情は、顔に張り付いた微笑み。 その瞳は何も語らない。 ただ、旧校舎を見ている。 開けっ放しの扉からは何の気配もしない。 人間も、それ以外のモノも。 活気のない学校は学校ではない。 何か別のものに、「変貌」する。 風だけが絶えず動く。 さらさらと音をさせながら訪れては去っていく。 男たちの髪を揺らし、頬を撫で、どこかへ消えていく。 とても長かったのか、それともほんのわずかの時間だったのか。 風間がゆっくりと口に出す。   そろそろ、いこうか。 その微笑みも、瞳の色も、変わらない。 新堂がぴくりともせず、   ああ、 と頷いた。 風がふいたその刹那、男たちの姿は風に消えた。 きっと彼らがここにいたことは、誰も知る由もない。 あとにはただ、どこにでもある缶コーヒーの缶が2つ、寂し気に残されていた。 死体が出てきた。 男が4人、女が2人。 学生服の、まだ死んで間もない死体。 あるはずのない新聞部の集会に集まった、いるはずのない6人。 それでも、居たのかも知れない。 彼等は本当にそこに存在していた。 缶コーヒー2つを取り残して。 いのちが宿るその日まで。 あとがき。 こんにちは、2作目のゆきうさぎです。 登場人物を2人にしぼってみよう企画その1です。 セリフが2コしかない〜!いえ、けして手を抜いたワケでは・・・(汗 これの別バージョンを製作中です。 こんどは人間風に。 なんだかワケわからなくてご免なさい。 よろしければ、感想お願いいたします。 掲示板か、r_hoshi@ra3.so-net.ne.jpまで。 それでは、あなたに幸せが訪れますように。


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