WHITE LOVERS


三月十四日は男の子の大切な日!
チョコを貰ったオトコのコはオンナのコにお返しだよ☆
それがもし本命だったら、お返しに白いリボンをつけましょうッ!
そしてオンナのコの耳元でこう囁くの!
「本命だよ」ってね☆
(月刊雑誌「モンテスキュー」ホワイトデー特集より抜粋)

晴れ晴れしくもきたるこの日、放課後は戦争である。
「荒井先ー輩ッ!」
今日も福沢玲子は元気いっぱい。七不思議の会で知り合った荒井のことを追い
掛けていた。
「勘弁して下さいよ…」
荒井はそれから逃げているわけだ。だって彼は、何故追い掛けられるかいまい
ち分かっていない。
今日はホワイトデー。男もコも女のコも今日一日が勝負時なわけで。
荒井は、バレンタインデーに福沢からチョコを貰っていた。
元気で活発な彼女のことだ、きっと皆に配り歩いているのだろう。
荒井はそう勝手に解釈していた。
しかし福沢にとってそれは、実は本命だったのだ。
お返しがもらえなければこの恋は成就しない。
福沢はそう考えて追い掛けているわけだ。
「荒井せんぱーいっ、何か忘れてませんー?」
後ろから叫ばれて、荒井はちらりと振り向いた。
「何かって…」
今日はホワイトデー。
彼女はひょっとしてお返しを期待しているのだろうか。
だが、荒井には小耳に挟んだ噂があった。
福沢は坂上のことが好きなのだと、そんな噂。
だから自分には関係ないと思っていたのだ。
ホワイトデーなど。

同じころ、旧校舎の近くにある桜の木のあたり。
「えっと…誰にチョコあげたんだっけ?」
恵美は一人、考えていた。
知り合いが多い彼女は、あげたチョコの数も多い。
「まず…坂上君でしょ、新堂先輩、細田先輩、荒井先輩、日野先輩、…」
次に出てくるハズの名前を言おうとして、恵美は思わず止める。
義理チョコを配ったが、実はその中に本命が混ざっている…というのは、あり
がちな話。
「風間先輩」
そういうわけで、恵美は風間望に片思いなわけだ。
彼は女の子に優しい。それこそフェミニストと言うのだろう。
ゆえに誰が本命なのか見分けるのが難しいのだ。恵美にも誰だかは解らない。
だがその気持ちが自分に向いていれば。恵美はそう思っていた。
「…あれ、恵美ちゃん」
そこへ、恵美にとっては一番お返しを貰いたい人物があらわれた。
「風間先輩。どうしたんですか?」
笑顔になって、いつもどうりの反応をする恵美。
対する風間も、いつもの飄々とした笑みを浮かべている。
「恵美ちゃんこそ。ぼーっとしてると思ったらいきなり笑いはじめるから、ど
 うしたのかと思ってね」
どうやら考えていることが顔に出ていたらしい。恵美は手で顔を覆う。
「やだなぁ、もう。…風間先輩は、誰かにお返しあげたんですか?」
「うん。ひととおりはね。やっぱり貰ったらお返ししないとね」
ひととおりは、という風間の言葉に恵美が反応した。
「先輩。私もあげたんですけど」
しかも本命なのに、と恵美は心の中で付け足した。
とたんに風間の表情がびっくりしたような顔に変わる。
「あ、そうだったっけ。ごめん!もうお返し残ってないんだ。今すぐ持ってく
 るからここで待ってて!」
言うなり風間は走り去ってしまった。
自分のことを忘れていた風間に腹をたてながら、反面急いで走っていったこと
に嬉しさを覚える恵美であった。
恋は盲目。

「先輩っ、もう逃げられませんよぉ!」
一方こちらは福沢と荒井のペア。
あれから鬼ごっこで激闘し、校庭の隅っこでやっと終結したのだ。
福沢は肩で息をしていた。しかし、勝ち誇った笑みを浮かべている。
「何か…用事ですか…?」
荒井もすっかり息が上がっている。すっかり諦めの表情をしていた。
「だって、今日はホワイトデーですよぉ?」
首をかしげる福沢。本当に何も無かったらどうしよう、と内心心配しているの
だが。
「だから…坂上君のところには行かないんですか?」
荒井が一番気になっていることだった。坂上が本命だと、そう聞いているのだ
から。
しかし福沢の反応は、予想外だった。
「え?何で?」
いつのまにか降ってきた雪が、はらはら舞いおちた。
「たしかに坂上君にはあげたけど、もうお返し貰っちゃいましたよ。ほら」
そう言って福沢はポケットをまさぐる。出てきたのは手のひらサイズの小さな
箱。
「やっぱ義理には義理しか返ってこないってことですよね…」
えへへ、と照れたように笑う福沢。
そんな福沢を見て、なぜか荒井はホッとため息をついた。
「…よかった。坂上君が本命だったら渡さないでおこうと思ってたんですよ」

「…え?」
荒井が優しく微笑んだ。

「うー…寒いなーもう…」
恵美は枝だけになった桜の木の下に佇んでいた。
雪がひらひらと舞いはじめ、だんだんと冷えてきたわけだ。
もう30分くらい待っているのだが、一向に返ってくる気配のない風間。
まさか騙されたんじゃ?ちと思いはじめたその時。
「ごめん恵美ちゃん!」
そんな言葉とともに、風間が恵美の元にやってきた。
「遅いですよぉ、風間先輩」
恵美がちょっと怒ったように言うと、風間は、ごめんと再び言って笑った。
「寒くない?これ貸してあげる」
そう言って、風間は自分のしていたマフラーを取り恵美の首筋に巻いた。
「わ、ありがとうございますっ」
やけに嬉しそうな恵美に風間は微笑んだ。深緑のマフラーを恵美が嬉しそうに
見下ろしている。
「それじゃ、これお返しね」
ポケットの中に手をいれて、小さな箱を出す風間。
そのまま恵美の前で、それを開けてみせた。
中には輝く指輪。
「…風間先輩、これって…」
恵美が嬉しそうに笑った。


チョコを貰ったオトコのコはオンナのコにお返しだよ

荒井はバックの中から綺麗にラッピングされた箱を出した。
「ちゃんとお返しはありますよ。福沢さん」
風間は指輪の箱を持ったまま微笑んだ。
「君のお返しはちゃんと買ってあるよ」

もしそれが本命だったら

荒井が手にもつ箱、綺麗にラッピングされたそれには、白いリボンが巻かれて
いた。
「受け取ってくれますか?僕のお返し」
指輪には白いリボンが巻いてあった。風間はそれを取り出す。
「白いリボン…どこに巻こうか苦労したんだよ?」

お返しに白いリボンをつけましょう

荒井は福沢にお返しを渡した。嬉しそうに、少し恥ずかしそうに笑う福沢。
それを見て荒井は微笑み、何かを囁こうと近付いた。
風間は取り出した指輪を、恵美の左の薬指にはめた。照れたように、嬉しそう
に笑う恵美。それに満足したように、風間は恵美を抱き締めた。

そしてオンナのコの耳元でこう囁くの

「本命ですよ」
「本命だよ」




本命だよってね



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