学怖荘の人々
第1話「突然の・・・」

  僕の名は坂上修一。某二流大学に在学中・・・・・・だった。僕は、無実の罪で大学
  から退学処分を言い渡された。入学してたったの4ヶ月で・・・。
  大学生活をこれからエンジョイしようかという時に・・・。ああ!! 僕の今まで
  の苦労は何だったのだろう・・・。勉強した意味がないじゃないか・・・。
  ・・・さらに、追い討ちを掛けるように親から、『退学になるような悪い子を家に
  おいて置く訳にはいかない!』と、家を追い出され、僕は途方に暮れていた・・・。
  そんな時に、僕の姉から呼び出しの電話がかかった。僕は姉の元へ向かった。
  これから僕の運命を大きく左右する恐怖と絶望の館へと・・・。
  その館の名は・・・・・・『学怖荘』・・・・・・

坂上「・・・え〜っと、ここか?『学怖荘』っていうのは・・・。」
   ここ、学怖荘は辺鄙な所にあった。街から外れた不便なところである。
   建物の外観は大きく、ちょっと不気味な気もする・・・。僕が入るのを躊躇してい
   ると1人の老婆が僕に声を掛けてきた・・・。
老婆「イーヒッヒッヒッヒッ。お前さん1人かぇ?」
坂上「はっ、はい。そうですが・・・」
   老婆の風体は、一見すると魔女のようにも見える。黒いローブに身を包み、この
   季節にこんな暑苦しい格好をしているなんて・・・。
老婆「おや? お前さん見ない顔だねぇ・・・。新入りかぇ?」
   老婆はニヤリと怪しく笑ったような気がした・・・。僕は何だか怖くなってきた。
   やはりこんなトコに来るべきではないと思った。
坂上「いえ、ここの者じゃありません。」
老婆「そうかぇ・・・。イーヒッヒッヒッヒッ・・・お前さんに、この幸運のお守りを格安で
   売ってあげるよ。なーに! 今ならたったの一万円じゃ・・・」
坂上「一万円!? たっ、高い・・・」
老婆「何を言うんじゃ・・・。これからお前さんの身にかかる不幸を和らげることを思えば
   安いもんじゃ・・・。」
   そうは言われても、僕には、とてもそんな価値のあるものには見えなかった。
   すると・・・
老婆「んっ!? 今日は日が悪い、また出直してくるよ。イーヒッヒッヒッヒッ・・・。」
   そう言うと、老婆は急ぎ足で去って行った・・・。

坂上「あっ! 姉さん・・・」
   向こうから姉さんがやってきた。姉さんはここの管理人をしている。
   どういう訳かは知らないが、5年前に家を飛び出し、ここに来ているらしい・・・。
   5年前のまだ幼さの残る容貌とは違い、もうすっかり大人のオンナになっていた。
姉「修一、久しぶり。ちょっと見ない間にたくましくなったわねぇ〜」
坂上「姉さんこそ・・・。5年経ったらこんなに綺麗になっちゃって・・・」
姉「まあ! 修一ったら・・・。そんなこと言って、女の子泣かしてるんじゃないでしょ
  うね?」
坂上「失礼な!! だいたい姉さんは・・・クドクドクド・・・・・・」
姉「何よ! 相変わらず可愛くないわね・・・。そういう修一だって・・・」
   僕達が言い争っていると、1人の女性がこちらにやってきた。
女性「何やってるんですか・・・」
   半ば呆れたような顔でそう言った。僕は、その人の方に目をやった・・・
坂上「・・・(わあ! 何て綺麗な人なんだ・・・・・・)」
   僕は思わず見とれてしまった・・・。
姉「あら? 修一、どうしたの。ぼんやりしちゃって・・・」
   姉さんがニヤニヤと僕の方を見て笑っている。
   まるで僕の心を見透かしたように・・・。
坂上「どうもしないよ! 全く嫌な人だなあ・・・」
姉「アハハ、冗談よ、冗談! すぐにムキになるんだから・・・。」
坂上「全く・・・」
   僕の姉は昔からこんな調子だ。いつもふざけてばかりいて、僕のことをおちょく
   るんだ。姉のそういう性格は好きでもあり、嫌いなところでもあった。
   見ると、女の人が困った顔で僕らのやり取りを見ていた。
姉「そうそう、紹介しておくわね。この子は『岩下明美』さん。修一よりも二つ年上に
  なるのかな・・・」  
坂上「あっ! 岩下さん、よろしくお願いいたします・・・」
岩下「・・・よろしく。」
   彼女の返事は素っ気なかった。
   僕はこの時、彼女に潜む大きな黒い影に気づいていなかった・・・。
姉「岩下さん、みんなを食堂に集めてくれる? 重大な話があるの・・・」
岩下「わかりました・・・」
   ・・・何だろう?重大な話って・・・。僕はこの疑問を姉に聞いてみた。
坂上「重大な話って?」
姉「そのうちわかるわよ♪」
   僕はまだ、姉の企みを知る由もなかった・・・。


               −食堂にて−

   僕達が食堂に入ると、18個の目玉が一斉にこちらに向けられた。
姉「全員揃ってる?あれ?芹香がいないみたいね・・・。まあ、いいわ。」
男性A「坂上さん、いったい誰なんですか?その人は・・・」
   ちょっと陰気そうな男がそう言った。
男性B「姐さん、話って何です?」
   さも僕に興味を示さず、姉に話の内容を聞こうとしている。
坂上「あっ、姐さんって・・・」
男性C「何だい?君は知らないのか・・・」
   ・・・この男からは危険な匂いがする。僕はなぜか本能でそう感じていた・・・。
男性D「新しい住人かな?嬉しいなあ・・・」
   太った男が嬉しそうに言っている。
女性A「ねえねえ、玲子ちゃん。結構イイ線いってると思わない?」
女性B「うん。でも、新堂さんには負けるけど・・・」
   僕と同じくらいの年の女の子がそう話している・・・。
姉「みんな〜! 静かにして〜・・・」
   その鶴の一声で、ざわついていたこの場が静寂に変わった・・・。
坂上「・・・(姉さんっていったい・・・)」

姉「話っていうのは、他でもありません。私はここの管理人を辞め、後継者として私の
  弟、修一に、新しい管理人となってもらうことです!」
一同「え〜っ!?」
坂上「・・・姉さん!いったいこれは・・・?」
   僕はそんなことは一言も聞いていないし、承諾もしていない。
   姉さんは何を考えているのだろうか・・・。
女性C「姐御〜、管理人辞めちゃうの〜?」
   みな、口々に姉に対し辞めないで、との声が広がる。
姉「・・・みんな、ありがとう! でも、もう決めたことなの・・・」
   姉さんは切なげに語る・・・って、勝手に決めないでくれ〜・・・
女性B「でも・・・。」
   どうもみんな合点がいかないようだ。
   そりゃそうだ。僕も納得してないんだから・・・。
男性E「おい! みんな!! 姐さんが決意なされたんだ!!! 黙って言う通りにし
    ろ!!!!」
男性D「・・・日野様がおっしゃるのでしたら・・・」
女性B「日野様の言う通りだわ・・・」
男性B「・・・俺は納得がいかないな〜・・・」
男性C「僕も新堂の意見に賛成だよ・・・」
男性A「そうですか?僕は、彼こそが適任者だと思うんですけど・・・」
男性C「荒井君・・・。相変わらず君はモノというのがわかっていないようだね〜・・・」
男性A「風間さん、何、自分で自分のことを言ってるんですか?」
男性C「・・・おのれ〜!! やはり貴様は痛い目に会わないと分からないらしいな〜」
岩下「ちょっと!! 辞めなさいよ2人とも!!」
坂上「そっ、そうですよ・・・。ケンカはよくないです!」
   僕がそう言うと、岩下さんはギロリこちらを睨み付けてくる・・・
岩下「元はといえば、あなたのせいでしょ!?」
男性B「岩下の言う通りだぜ! みんなコイツが悪いんだ!!」
女性B「そうよ! 考えてみれば、姐御がいなくなるのもみんなあなたのせい!!」
坂上「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!! 全ての元凶はウチの姉にあるんですよ
   ・・・。どうして僕の責任になるんですか皆さん・・・?」
男性C「みんな、聞いたか? こいつ姐さんのせいにしてるぞ!! 化けの皮が剥がれ
    たな・・・」
姉「ひっ、ひどいわ・・・修一。みんな私のせいにするのね・・・」
   こっ、この人たちは何を言ってるんだ・・・? みんなおかしい・・・。
姉「あなただけ親元でぬくぬくしながら、よくもそんなことが言えたものね!?
  悲しいわ・・・」
日野「おい! お前・・・姐さんを泣かせるとは!? 許さんぞ!!!」
   みんなが僕のことを卑しい目で見てくる。何で僕がこんな目に・・・
   と、その時、姉が助け舟を出した。
姉「嘘よ、ウソ! 修一が意地悪なことを言うから、そのお返しをしただけよ・・・」
坂上「・・・・・・・」
姉「私そろそろ行かなくちゃ・・・。じゃあ、みんな元気でね!」
坂上「えっ!?」
姉「修一、後のことは頼んだわよ!!」
坂上「そんな無茶苦茶な・・・。最後まで・・・。」
日野「姐さん・・・」
姉「それじゃあね、みんな! アデュー・・・」
   そう言うと、姉さんは荷物を持ってこの部屋を後にした・・・。

坂上「姉さ〜ん! そりゃ無いよ〜・・・。でも・・・(考えてみれば僕は両親に勘当され、
   金も家も無い。僕はここの管理人になるべきではないのかと・・・)」
日野「・・・何で姐さんは、ここを出て行ったんだろうか?」
新堂「は〜っ? そんなの決まってんだろ、こいつのせいに・・・」
女性B「そうよ、そうよ!!」
   ・・・姉さんのいない今、また僕に危機が迫っている。
   だが、僕にメシアが現れた・・・

女性D「いいんじゃない? この人が管理人で・・・」
新堂「芹香さん・・・」
風間「芹香さんがそうおっしゃるなら・・・」
芹香「私の占いでは、坂上さんは、『ある男性と駆け落ちする』と出ているわ・・・。」
日野「本当ですか!?」
岩下「・・・・・・」
荒井「『坂上さんも所詮は一人の女性だった。』と、言うことですね・・・」
女性B(福沢)「そんな・・・」
新堂「だからって、こんな奴に管理人が務まるって言うのか?」
風間「芹香様がおっしゃるんだ。認めないわけにはいかない!」
新堂「わかってる・・・。しかし・・・」
女性C(田口)「いいんじゃないの? 私、結構この人のこと気に入っちゃったし・・・」
日野「・・・真由美が言うんなら。(それに姐さんの最後の頼みだしな・・・)」
荒井「僕も良いと思います。」
女性A(元木)「私も良いと思う。おばあちゃんもこの人は良い人だって言ってるし…」
女性B(福沢)「・・・早苗ちゃんが言うのなら仕方ないわ。」
風間「ところで芹香さん、どうしてヴェールなんか被ってるんですか?」
新堂「そうですよ!・・・ああ、わかりました! そうですか、この男に襲われないよう
   にですね・・・?わかります。わかります!!」
男性D(細田)「そうだ! どうでしょう、ここは芹香先輩の占いの結果で、坂上君を
        管理人だと認めるかどうか決めたらいかがでしょうか?」
荒井「細田さん、たまには良いこと言いますね・・・」
細田「『たまには』は余計だよ・・・」
日野「新堂、どうだ? これならはっきりしていいだろ?」
新堂「・・・そういうことなら。ただし、結果次第ではこいつには・・・(ニヤリ)」
芹香「わかったわ・・・。じゃあ占いの結果が良ければ、このヴェールを取るわ・・・。」
   そう言って、占いは始められた。使用されているのはタロットらしい・・・。
   この結果で僕の運命は決まるのだ・・・。と、その時・・・・・・


                              第2話につづく・・・



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