鏡の少女
03:30 昼と違い夜の校舎は暗く静寂で、まるで迷路みたいだ。 そして迷路と化した学校は、僕の五感を容赦なく奪って行く。 今この場所も状況もここにいる僕も、すべて夢の中の出来事だといいのに…。 僕は今までの出来事を振り返ってみる。 新聞部の怖い話の企画は、僕を陥れるための偽りの企画だった。 「殺人クラブ」と名乗るその集団に、僕はなぜか目をつけられてしまったのだ。 僕はなすすべもなく毒入りのカプセルを飲まされてしまう。 そしてカプセルが体内で溶け出す前に、校舎内に隠された解毒剤を見つけ出さな くてはならない。そして僕は今、解毒剤を求め夜の校舎をさまよっている。 しかし、ここの学校はとても広い。本当に解毒剤なんてあるのだろうか? もしかしたらとうにないのかもしれない…と諦めかけていた時 「あきらめちゃだめ!」 またこの声だ。 最初に僕が諦めそうになった時、どこからともなくこの声が聞こえてきた。 その声は不思議と僕の精神的な疲れを癒してくれた。 いったいどこから聞こえるのだろうか。声の主はどこにいるのだろうか? 「こっち、こっちよ」 前を見るといつ現れたのか、ひとりの少女が立っている。 離れているはずなのに声はすぐ近くで聞こえる。彼女はこの声の主だろうか? 「ここ…入って」 彼女が指した部屋は職員室だ。ここに解毒剤があるのだろうか? それとも、なにか大事なヒントでもあるのだろうか。 でも奴らのワナだったら… 入るのをためらっている僕の心を読み取ったのか、彼女が答える。 「大丈夫。ここには誰もいないから」 その言葉に僕は安心した。 彼女は少なくとも奴らの仲間ではない。そう思ったからだ。 僕は入ってみることにした。 03:21 当たり前だが電気はつけずに月明かりだけをたよりに職員室を隈なく調べた。 解毒剤はなかったが、大きな収入はあった。 僕は他の教室の鍵束とドライバーセットを手に入れたのだ。 鍵束があれば、たとえ鍵がかかっていても入れる。 ドライバーセットは…少々頼りないが脅しの道具にはなるだろう。 気がつくと彼女は消えていた。どこに行ってしまったのだろう。 彼女を探そうか?でも僕には時間がない。 そのうち彼女に会えることを信じて職員室を後にした。 03:06 次に美術室へ来た。美術準備室の方からは、絵の具の匂いがする。 ここも人の気配を感じない。鉢合わせにはなることはないだろう。 僕が美術室を選んだ理由は、廊下の窓からさっきの彼女が美術室の方に歩いてい くのを見たからだ。 職員室のことといい、またなにかあるかもしれない。 たとえここに解毒剤は無くても、なにか大きな収入があるかもしれない。 例えば解毒剤の手がかりとか、脅しの道具とか。 けれど、一体彼女は何者なのだろう。 もしかしたら、彼女は僕を助けてくれているのかもしれないが… 今は考えている暇は無い。早く解毒剤を探さなければならない。 僕は念には念をと再び周囲を見回す。 やはり誰かが隠れているような気配はない。さてどこから探そうか? 僕はまず、美術室の戸棚を探すことにした。ガラス戸付きの戸棚だ。 月明かりもあって、まるで鏡のように強く反射している。 ガラス戸を開けようとしたが、たてつけが悪いのか固くてなかなか開かない。 僕はちょっとの間てこずっていた。 …と、その時ガラス戸に人影が見えた。彼女だろうか。いや、彼女じゃない! 「…誰かいるわ、気をつけて…」 姿は見えないが声は聞こえる。彼女も何かを感じているのだろうか。 殺気を感じる。さっきまでは人の気配は感じなかったのに。 おそらく、奴らの一人に間違いない。 それはだんだんと僕の方へと近づいて来た。どうしよう?どうすればいいんだ? とりあえず僕は、もう少し探してる…フリをした。影が近くに来るまで待つ… 今だ!奴が向かって来た瞬間を狙って攻撃する。 「うわっ!」 人影はうめき声をあげて倒れた。僕は即座に馬乗りになる。 風間だった!手にはカンナを持っていた。 これで殺そうとしたのか! 僕は馬乗りのまま風間に解毒剤の場所のことを聞いてみたが、奴は 「知らない」 と言った。脅し続けても知らないと言う。 しかし、風間が僕を殺すために、学校の中で探し歩いていたことは分かった。 僕は風間に質問をするのはやめて、奴を縛り上げることにした。 これでひとまずは安心だろう。次は美術準備室へ行こう。 そこになにかあるかもしれない。もしかしたら彼女もいるかもしれない。 02:42こっちよ。…良かった無事で…」 案の定そこには彼女が立っていた。 彼女はひとつの棚を指した。ここに何かあるのだろうか。 もしかしたら解毒剤かも…そう思って調べた結果、のこぎりと金槌を見つけた。 ドライバーよりも破壊力は大きいかもしれない。 次に、大きなキャンバスに描かれている岩下の肖像画を見つけた。 もしかしたら盾になってくれるかもしれないし、岩下の弱点になるかもしれない 。この絵は持っていくことにした。 気がつくと、また彼女は消えていた。 僕は気を取り直して、再び調べ始める。 岩下の絵以外では、別の人の手による女学生の肖像画があった。 モデルは誰だろう…? どこかで見たような…そうだ彼女だ!彼女がこの絵を描いたのだろうか。 そして彼女は、まだこの学校の生徒なのだろうか。 もし僕が生き延びたら…そして彼女がこの世の住人ならば彼女に会いたい。 例え、今夜の出来事を忘れていても会ってみたい。 そう思いながら、僕は美術室を後にした。さて、次はどこに行こうか? 風間の動きを止めたことによって、僕の気持ちに少しゆとりができていた。 移動中に襲われることはもう無くなった… しかし、解毒剤を見つけなければ問題は根本的に解決されない。 一体どこに解毒剤はあるのだろう? 「新聞部室…へ」 彼女の声…新聞部室? そうだ新聞部部室!そこに解毒剤があるかもしれない。 この学校のどこかにあるって日野が言っていた。 『灯台下暗し』とはこのことだ、すぐに行こう。 次のページへ・・・


前のページに戻る