02:24
部室に着いた。電気は消えている。
つまり、もう日野達はここにいないということだ。
僕は新聞部部室を見回してみる。と、その時だった。
「死ね死ね死ね死ねっ!」
声と共に、僕の首は何者かによってロープで絞められていた。
岩下だ!
まさか、ここに息を潜めて待ち伏せしていたとは…
ロープを緩めようとしたが、外れない!
とても女の子の力だとは思えない凄い力だ。
僕は驚いて、脇に抱えていた肖像画を落としてしまった。
それと同時に岩下の手の力が緩まった。
どうやらこの絵は、岩下にとってとても大事な物らしい。
急いで僕は岩下の縄から抜けると絵を拾った。
「返して!」
岩下は動揺していた。この絵は使える!
僕は、肖像画にのこぎりの先端をあてて岩下を脅すことにした。
「そんなにこの絵が大事か?」
「…」
「なら破ってやろうか?」
「お願いっ!やめて!」
岩下は真っ青になってしまっている。
今がチャンスだ!…と解毒剤の場所を聞こうとしたその時!

「うわーーーーー!!」
「逃げて!」
彼女の声と同時に誰かが叫び声をあげて突進して来る。
彼女の声に従いたくても、突然だったので逃げることができない!
とっさに僕は、肖像画を盾にする。
「死ぬんだよ。坂上君!」
声の主は、荒井だった。
そしてどうにかして、荒井の突撃に耐えることができたが、僕が突撃を耐えた後
、荒井は彫刻刀を肖像画に向かって、何度も突き刺した。
肖像画に空いた無数の穴から、荒井のギラギラした目が見える。
これが無かったら、今ごろ僕の体は血だらけになって死んでいただろう。
「キャーーー!」
岩下が叫び声をあげた。
「殺してやるっ!!」
次にはそれが、憎しみの叫びとなった。岩下の目つきが鋭くなる。
さっきの荒井より数段大きい殺意が感じられた。
「うわっ!」
岩下は荒井に向かって行った。そして取っ組み合う。
荒井は、危機を感じ必死に抵抗したが、すぐに岩下が上に乗っかるような形にな
った。岩下は、荒井から彫刻刀を奪い取り、それで荒井を何度も刺す。
岩下のシャツは、荒井の返り血で真っ赤に染まっていき、荒井の顔は死の顔へと
変わっていく…一瞬の出来事だった。
そして荒井がピクリとも動かなくなってから、彼女は僕の方へ向く。
僕はとっさにかまえた。
「…坂上ッ!この絵が無くなった今、私が生きる意味はもうないわ。あの絵は
 私が愛した先輩が描いてくれた物だったの。でも彼は、卒業して私の前から
 いなくなろうとした。だから私は彼を殺したの。この絵は彼の形見だった。
 私はこれ以上生きていてもしょうがないわ!坂上!先にあの世で待っていて
 あげるわ」
そう言うと同時に、岩下は持っていた彫刻刀で自分の喉を刺して倒れた。

盾がダメになったのは残念だが、殺されずに済んだし、僕の命を狙っていた人間
が、二人いなくなった。
落ち着いて解毒剤を探すこともできる。
そうすれば全てが終わる。あとは、日野たちを刑務所へ送ってやる。
覚悟してろよ、日野!
それだけ決意して、僕は解毒剤を探すことにした。さて、どこから探そうか?
「…後ろ見て…」
その時、後ろで彼女の声が聞こえた。
振り返ると、新聞部の活動記録を保存しておくための棚がある。
調べると、新聞部内では見たことのないノートが置いてあるのに気付いた。
そこにはこう書いてあった。
『殺人クラブ活動記録・部長日野貞夫』
何かヒントとなることが、書いてあるかもしれない。
僕はページを開いてみる…
ノートには、殺人クラブの歴史と今までの活動内容。
次に、部員である語り部達の名前。
そして…『処刑リスト』という箇所には、殺されたと思われる人と殺す予定の人
物の名前が書かれていた。僕の名前もその中にある。
名前と共に、なぜ殺されなくてはならないかと言った理由も記されている。

 岩下……入学式の時、私の顔を見て笑った。
 風間……坂上君が自転車を運転してた時、僕のズボンにドロ水がかかった。
 荒井……坂上君が座っていたため、僕は電車で座ることができなかった。
 新堂……俺が何度も呼び止めたのに、坂上は無視した。
 福沢……坂上君が吐いたガムを踏んだ。
 細田……坂上君が最後のカレーを注文した為、僕は食べる事ができなかった。
 日野……坂上の親が昇進したため、俺の親は昇進できなかった。

…狂っている。
こんな理由で人殺しをするなんて、狂っているとしかいいようがない。
もうこうしちゃいられない。早く解毒剤を見つけ出してやる!
その決意を胸に、僕は部室を後にした。次はどこに行こうか…。
考えてみれば、薬品を置いてある教室に解毒剤はあるのかもしれない。
薬品のビンに紛らせておく可能性もある。
そう考えた僕は、薬品が置いていそうな教室を思い浮かべる事にした…
保健室と科学室…。よし、まずは近くの科学室に行く事にしよう。

01:57
科学室だ。いろんな薬品の匂いがする。薬品棚には様々な種類の薬がある。
でも解毒剤らしいものは見当たらない…
しかし、僕は代わりにあるレポートを手に入れた。
『人間の生と死に関する100日の動向』というレポート。執筆者は…福沢だ。
僕はちょっと読んでみる事にした。

『今日、私のおじいちゃんが病気になりました。私は家でおじいちゃんが死ぬ
 までの調査記録をとることにしました。
 今日、晩御飯の後おじいちゃんは少しだけ血を吐きました。お医者さんが来
 て、注射をして帰っていきました。私はもっと身近で調べたくなり、お母さ
 んにお願いして、おじいちゃんに薬を持ってくる係りになりました。
 家で、おじいちゃんを病院に入院させるかどうかの家族会議になりました。
 私は、入院したらレポートが中断してしまうと考え、「おじいちゃんにそば
 にいてほしい」と嘘泣きで食い止めました。
 往診に来たお医者さんが太い注射を3本もしていきました。おじいちゃんの
 お薬が変わりました。きっとあれは毒です。おじいちゃんの様態は悪化する
 一方だから、お医者さんもおじいちゃんを早く楽にしてあげようと思ってる
 に違いないからです。
 とうとうおじいちゃんは入院が決まってしまいました。今度は嘘泣きしても
 だめでした。
 明日、おじいちゃんは入院します。私は痩せ細ったおじいちゃんに「おじい
 ちゃん死ぬの?」と聞いたら、おじいちゃんは笑って頭をなでてくれました。
 うれしかったけど、おじいちゃんは死を自覚してるからもう調査はしません。
 残り50日の研究対象は変えようかなと思います。なぜなら研究対象になる人
 には、もっと死に追い詰められて欲しいからです』

…なんということだろう。自分の身内の死についてレポートするなんて…
多分、残りの研究対象はこの僕になるだろう。絶対に殺されるものか!
しかし、こんなレポートを受け取る教師も教師だ。

01:39
次に僕は、保健室へ行くことにした。
保健室は消毒液の匂いがする。どこから探そうか…?
ガタッ。
…ん?ベッドが動いたような…きっと奴らの一人に違いない。
僕がベッドに近こうとした時!
「近づいたら殺されるわ!」
彼女の声。僕は踏み出した足を引っ込めた。やっぱり誰かいるんだ。
でも部屋を後にしたら背後から襲われる。どうしたらいいんだろう。
そうだ。美術室と同じ行動をすればいいんだ。解毒剤を探すふりをしよう。
やっぱりここには解毒剤はなかった。

と、突然何かが突進してきた。僕はとっさに避ける!
ガッシャーン!!
棚のガラスが大きな音をたてた。
体制を立て直すと、細田がナイフを持って向かってきた。
僕はとっさにガラスの破片をつかんで、細田の顔に向かって振り下ろした。
「ギャー!ぼ、僕の耳がー!!」
細田は、耳があったであろう場所を手でおさえながら悶え回った。
「泣くんじゃねえっ!このデブ!」
武器で初めて攻撃をしたからだろう。
興奮した僕は、細田にガラスの先端をあてて脅してみた。
「もう片方の耳を切られたくなかったら…さっさと解毒剤の場所をいうんだ!」
「わ、わかったよ!ぼ、僕見たんだ。日野様が解毒剤を持って旧校舎に入ると
 ころを…」
それだけ聞くと細田を殴り飛ばした。
場所が聞ければ、もうこいつに用はない。時間の無駄だ。
旧校舎を探していけばいいんだから。
「旧校舎か…」
「た、頼むよ。僕が場所を教えたこと、日野様に言わないでくれるよね?」
必死でしがみついてくる細田を蹴飛ばすと、僕は決意を新たにした。
「旧校舎…」


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