・・・七不思議をやった時も、言ったね。これはやめたほうがいい、と。
今回も同じさ。やめたほうがいい。今度こそ、何がおこっても不思議じゃないか
らね。
僕らはこうして知り合いになった。だけど、隣の人間が自分の知り合いだってな
ぜ分かる? 
見た目、声、雰囲気、そんなものは悪魔や幽霊のたぐいなら真似することは簡単
なんだよ。
だから、僕らは気を抜いちゃいけないんだ。
隣のやつが、自分自身が、いつ「持っていかれるか」わからないからね。
君たちも、死にたくはないだろ?
僕もさ。だから、気を抜いちゃいけないんだ。
まして今は夜中、昼間は見えないものが見えてくる。
ほら、今、音がしただろ?
ラップ音さ。
霊があつまってきた印だ。
・・・それでも続けるなら、僕はとめない。
僕も93話までを終えた身だからね。
最後まで、話を聞くことにする。
・・・百物語ってのは、途中でやめてもいけないらしいからね。

「さて、僕の話は終わりだ。次は誰が話す?」

そう言いながら、風間さんは火を吹き消した。
ロウソクが、1本なくなる。
のこりは、6本。
「じゃあ次は俺だ。いいか?」
新堂さんが、ぽつりと言った。



これは恐い、というより不思議な話だな。俺自身よくわからない。
これは、俺が体験した話だ、だがわからないことがたくさんある。
あえてそのまま話すから、「わからない」は禁止、いいな。
・・・俺は、その日学校に行くのが遅くてさ。
昼ごろだったんだ。何をしてたのか、なんて聞くなよ。
ちょうど12時前後ってとこか。
それで、バスに乗った。そう、学校までの直通のバス。
俺んちから学校までは歩いていけるじゃないかって?
まぁ、そのへんはまた後でな。とにかく俺はバスに乗った。
さすがに俺しか乗客はいなかったよ。
あのバスってさ、5分おきに学校と駅を往復してるんだよな。
駅から学校につくまで15分くらいだから、最低でも2回はバスとすれ違う
計算になる。
それがあたりまえだったから、俺はたいして気にせずに窓の外を眺めてた。
ところが、おかしいんだ。
いつもだったらすれ違うはずのバスが一台も通らない。
おかしいなと思って時計を見たら、びっくりしたよ。
腕時計が、まだ12時なんだ。
俺がバスに乗ったのが12時、もう10分は走ってる。
なのに腕時計はまだ12時。
さすがにこれはおかしい、そう思ってさ、運転手に言おうと思った。
そこでまたビックリさ。
運転手が乗って無いんだ。ハンドルだけが動いててさ。
俺は正直、叫びそうになったぜ。
このバスに乗ってるのは自分一人だってことに気付いちまった。
なんだか恐くなって、俺はもといた席に座った。
とりあえず待ってみようってね。
ところが、ちっとも学校につかない。あれはもう、30分ぐらい走ったんじゃ
ないか?
見ると、道がループしてるみたいなんだよ。
俺は困ったね。このままループから出られなかったらどうしようかってさ。
外はだんだん暗くなっていった。
もういい加減、諦めかけたその時、突然バスが止まった。
学校の前に、ついたんだよ。
ドアが開いて、俺は急いでバスから降りた、そして振り向くと、そこにはなに
も無かったんだ。
学校の時計を見ると、深夜0時。つまり、12時だ。
もしかして俺は、時間のはざまに入っちまったのかな。
こっちの時間が向こうと同時刻になったから、出てこられたのかもしれない。
もしあの時、降りてなかったらって考えると、今でも恐い。

「・・・俺の話はここまでだ。次は誰だ?」

新堂さんが、火を吹き消した。
ロウソクが1本なくなる。
残りは、5本。
「次は私が話すわ・・・」
岩下さんが、くすりと笑いながら言った。



これはね、私の体験談なの。嘘みたいな、本当の話よ。
私ね、学校で遅くまで残ってたの。
それで、帰ろうって思って教室を出た。
誰もいなくて、なんだか世界で私だけが生き残ったみたいに思えたわ。
私、目の前の階段を降りていった。
カツン、カツンって私の足音だけが響くの。けっこう、恐いのよね。
そこにね、ピアノの音が聞こえてきたの。
とってもきれいな音色で、私、思わず音楽室に向かったわ。
それで、ドアの前に立って、こっそりドアをあけてみたの。
そしたらね・・・・・。
誰も、いなかったのね。
ピアノのふたも閉まってたし、人が隠れてる気配もなかった。
ただね、電気だけはついてたのよ。なんでかしらね。
それで、私は音楽室に入っていった。
何かに誘われるみたいに。
おそるおそる、ピアノの前まで行った時、突然ピアノの音が鳴り出したの。
しかも、そのピアノから聞こえてくるのよ。
あなた、ふたをあけたいと思う?
思うわよね。
私もそうだった。そっと、ふたを開けてみたの。
中には、なにもなかった。
本当に、なんにもなかったのよ。
鍵盤さえもね。あるのは、鍵盤を残らず取られたみたいな、穴が開いていた。

でも、そこから音が出てるのね。
しかも、なんだかくすくすって笑い声も聞こえるみたいだった。
私、急に恐くなって、そこから立ち去ったわ。
次の日に、音楽室のピアノを見に行ったら・・・・
ふたが閉まってるピアノから、真っ赤な血が流れてたの・・・。
何?「なにがなんだか分からない」って?
・・・そうね、私も分からないもの。
だから、この話は、これでおしまい。いいわよね・・・?

「私の話は終わりよ。次は誰?」

岩下さんが、火を吹き消した。
ロウソクが1本なくなる。
残りは、4本。
「じゃあ、次は僕だね」
細田さんが、切り出した。




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