マッチ売りの坂上君とフランダースのポヘ(マッチポヘ)
登場人物 マッチ売りの少女…いや少年=坂上修一  謎のアニキ=新堂誠 おしるこドリンク中毒の男=日野貞夫   女性=岩下明美 自称神に仕える神父様=風間望      宝塚チックな男性=福沢玲子 職務質問する警察官=荒井昭二      靴をとるボンボン=細田友晴 天国にいる愛犬=ポヘ(友情出演) Special Thanks=マッチポへという素敵な敬称略を考えてくれたづっきーさん 昔々あるところに、一人のかわいらしい少年がおりました。 少年は幼い頃、おしるこドリンク中毒の男の元に身売りされ、いつもボッタクリ の一歩手前の値段でマッチを売らされて生計をたてていました。 少年は、いつ完売するかわからない質の悪いマッチを手売りする毎日。 無論、そんなマッチに買い手は少なく、常に売れ残っては男に酷い目に合わされ る毎日を過ごしていました。 今日はクリスマス。今日も少年は、男のために、おしるこドリンクのためにマッ チを売っていました。 「マッチいかがですか・・・マッチ買ってください・・・」 ところが、マッチはいっこうに売れる気配がありません。 「ハァ、今日も売れないなぁ。売れなかったらお兄さんに怒られるよぉ」 マッチを売っておしるこドリンクを買って帰らないと、少年は男に何をされるか わかりません。寒さで懐も体も冷えそうな少年に、ある男が救いの手を差し伸べ ようとしていました。 「君〜、そんなところで何をしているの?」 「・・・え?」 後ろから突然声をかけられ振り返ると、そこには聖書を片手に黒いコートをまと った男が立っていました。 「ああ、怖がらなくてもいいよ。安心して♪僕は神に仕える神父ですから」 自称神父というその男の目つきに、少年はただならない恐怖を感じました。 しかし、せっかく声をかけてくれたのです。もしかしたらマッチを買ってくれる かもしれません。少年は勇気を出して言いました。 「・・・う、うみゅ〜、マ、マッチいかがですか〜」 「マッチ?買ってもいいけど・・・」 と言いながら、自称神父の男は少年の体と顔をジロジロ見ました。 「や・・・やっぱりいいです!さよならー!」 少年は一目散に逃げました。 「ハァ、ハァ、ハァ・・・」 猛ダッシュで何らかの危機を振り切った少年は、路地裏に迷い込んでしまいまし た。実際、少し歩けば少年の見覚えのある景色が見えるのですが、運悪くそこは 少年が知らないところでしたので、少年は迷ったと思いました。 「困ったなぁ。こんなところじゃあ、マッチが売れないよぉ」 少し困った少年は、とりあえず歩いて人がいそうなところに移動することにしま した。 もうちょっとで見覚えのあるところに着く・・・そのとき! 「君、ダメだよ。別に君をどうこうするつもりなんてないのに」 慌てて振り返ってみると、そこには先ほどのなぜか知らないけど怪しく思える自 称神父がいました。 少年は思わず半歩後ずさりました。すると神父も半歩前に進みます。 どうやら距離を離す気はないようです。 「だ、だって何か目が怖い」 「大丈夫。ちょっと僕に協力すれば良いだけだよ」 「きょ、協力? それで本当に買ってくれるんですか?」 「ああ、買ってあげるよ」 一瞬、少年は喜ぼうかと思いましたが、言い知れぬ予感が頭をよぎったので素直 に喜べません。 神父の目は怪しく、そして鋭い輝きを宿らせているのですから。 そして、少年の肩を掴むやいなや! 「神よ。僕だけの天使を与えてくださることに感謝いたします」 やっぱり目的は少年でした。 「うわぁっ!!」 少年は必死で抵抗しますが、寒さのためにあまり力がでません。 「何を怖がってるんだい?」 「怖いのはお前だよ」 「しかも神父とあろうものが、ごろつきと同じことを・・・呆れますね」 「えっ?」 いつのまにか、神父の背後には男が二人いました。 一人は、この町では「アニキ」と呼ばれている、このくそ寒い冬にタンクトップ 一枚、その上に革ジャンをはおっている、無駄のない筋肉の男。 もう一人は、この町に駐在する警察です。 「何か声が聞こえてくるから、もしやと思ったんだがこれかよ」 と言いながら、アニキは神父から少年を引き離し、どこから持ってきたのか某カ ジュアルショップのフリースジャケットを少年に着せました。 「最近、神父を装った変質者がいるとは聞いていましたが・・・通報に心から感謝  いたします」 そう言うと、警官は自転車の後ろにある箱から書類を取り出し、職務質問を始め ました。 「コ、コラ! 僕は神父だぞ! こんなことをしたら異端者として訴えるよ!?」 「ほう・・・どこの宗教に、非合意のもとで同性と契りを交わそうとする神父がい  るんですか?」 「う、くっ!」 「身分証明書は?ないのなら、ちょっと署まで来てもらいますよ」 こうして警官は、先ほどとんでもないことをしようとした神父を連行して行き ました。 警官はこの場を去ると同時に、アニキに敬礼をして言いました。 「あ、ご協力どうもありがとうございました」 アニキは、こういうのは慣れているといったように 「ああ」 と素っ気無い返事をしただけでした。 そして少年が寒そうにしているのを見ると、アニキは自分がカイロ代わりにして いた暖かいココアを少年に渡しました。 「大丈夫か?とりあえずこれ飲め」 「あ、ありがとうございます。助かりました〜」 少年はアニキにお礼を言うと、ココアを一口飲みました。すると足の先から暖ま っていくのがわかりました。少年は、今までこんなおいしいものは飲んだことが ないと思いました。 「おしるこドリンクよりおいしいかも・・・。本当にありがとう・・・ってあれ?」 いつのまにかアニキの姿は消えていました。夢を見ていた訳でもありません。 その証拠に、少年の手にはココアの缶があるからです。 「あ、のんびりしてる場合じゃない。マッチ売らないと・・・それに売っていたら  また会えるかもしれない」 ココアを飲み干すと、また体が冷え切らないうちに町まで歩き始めました。 しばらく経って、また飢えと寒さが少年を襲い始めました。 一生懸命に耐えながら人がいる場所まで歩いて行くその途中、少年は街灯に立っ ている女性を発見しました。 おそらくずっと誰かを待っているのでしょう。頭には雪が積もっています。 真っ赤な手に息を吹きかけて暖をとっています。少年は、この人ならマッチを買 ってくれるんじゃないかしら・・・と思い、声をかけてみることにしました。 「あ、あの〜。マッチいかがですか?それと頭に雪が積もってますよ?」 と、少年は背伸びをして、女性の雪をはらってあげました。 「・・・え?あら・・・ありがとう。でもマッチはいらないわ」 あっさり拒否されてしまい、少年はがっかりしました。 それをみた女性はなんだかかわいそうになり、自分が巻いていたマフラーを外す と、少年に巻いてあげました。 「マッチは買ってあげられないけど・・・雪をはらってくれたお礼にあげるわ・・・」 「あ、ありがとうございます」 少年は女性にお礼を言うと、また歩き始めました。 角を曲がると、今度は男性が同じような街灯に立っています。男性ならタバコを 吸うかもしれないからマッチを買ってくれるかもしれない。と思った少年は声を かけてみることにしました。 「あ、あの・・・マッチいかがですか?・・・ウワッ!」 なんと、顔がすっごい宝塚風な男性だったので、少年はおもわず叫んでしまいま した。 「いらない。僕はマッチの火よりも心にある愛の火を求めてるんだ(・・・うふっ。  一回やってみたかったのよね。宝塚♪)」 男性は、ややオーバーアクションで話していましたが、ふと少年が巻いている マフラーに目をとめました。 「ああ、このマフラーは間違いなくあのいとしい人の!君、これをつけてた女性  は一体どこにいるんだい?」 「え、向こうの街灯で誰かを待っているお姉さんにもらったんです」 「そうか、むこうか!ありがとう。ああ、雪よ!彼女を幻にしないでおくれ!」 と、少年の指した方向に向かって、男性は優雅に走って行きました。 少年は、なにがなんだかわからずにボーっと見ていましたが、 「あ、マッチ売らなきゃ」 と、また歩き始めました。 もうちょっとで見覚えのあるところに着く・・・そのとき! 「君、やっと見つけた」 慌てて振り返ってみると、そこには先ほど連行された自称神父がいました。 「わー!さっきの変質者!!」 「違います。神に仕える神父です」 少年は、今度は後ずさりすることもできずに固まってしまいました。 「大丈夫。ちょっと僕に協力すれば、マッチを全部買ってあげるよ」 「きょ、協力?」 「ああ、神様に誓うよ」 神父はおもむろに、少年の肩を掴むやいなや! 「さあ、すぐ近くに僕の教会があるからゆっくり体を暖めてあげる。マッチは  それから買ってあげるよ」 やっぱり目的は少年でした。 「うわぁっ!!」 「何を怖がってるんだい?」 少年は必死で抵抗しますが、やはり寒さのためにあまり力がでません。 誰か助けて・・・ と少年が思ったとき、助けが来ました。 「すみません、ちょっといいですか?・・・って、またあなたですか」 「えっ?」 いつのまにか神父の背後には、さっきの警察官と、さっき少年が会った男性と 女性がいました。 「お巡りさん!その人です。その人がこの子を連れ去ろうとしたんです」 「僕も見てました。間違いなく変質者です」 どうやら、警察官はこの二人が呼んだようです。 「また署まで来てもらいますよ。今度は職務質問だけじゃ済ませませんからね」 「ち、違います。僕は神父で変質者なんかじゃありません」 「変質者はみんな、そういう言い逃れを言うんです!!」 こうして警官は、先ほどとんでもないことをしようとした神父をまた連行して いきました。 男性と女性にお礼を言った少年は、ふりしきる雪の中を一生懸命歩いて、ようや く見覚えのある町にたどり着けました。 「マッチいかがですか〜。マッチいかがですか〜?」 少年は、震えながら一生懸命声を張り上げます。しかし、いつも売り歩いている 通りに出てみたものの、人はあまりいません。 それもそのはず、今日はクリスマス。 ほとんどの人が、家で静かに過ごしています。しかし年がら年中、ほぼ季節とは 関係ない暮らしをしている少年は、そのことにまったく気がつきません。 少年は寒さの限界でした。 「本当にどうしよう・・・それに寒い」 とりあえず少年は、近くの壁に寄りかかり座り込みました。人が近づいたら売り に行けばいい。そう考えたからです。 何よりお腹が空いていたので、あまり動けなかったのです。 次のページへ・・・


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