SECRET OR HIDDEN?
 
気付いたらそれは大事なものだった
離れた瞬間それは無くてはならないものだとわかった
その事を思い知らされた時、身体中の筋力が、思考が、気力が、そして感情が抜けていく
 
夕暮れが綺麗に見える放課後の屋上
―僕はそこにいた。呼び出した本人はまだ姿を見せていない。
あの手紙を読んでいなかったら、僕はここに来ていないだろう。
「空が茜色のドレスに着替えたころ、学校の屋上に来てください」
もしかしたら悪戯かもしれない。けど手紙を信じてみたい。
茜色の空を見上げ、僕はそんな思考を張り巡らせていた。
 
ぎぎぎぃ。
 
少し錆び付いた扉の音が聞こえたので、その音源の方を見ると…………そこに荒井さんがいた。
「すいません。少しばかり手間取ってしまいまして」
「あ、荒井さん?」
「ふふっ、信じられませんか?あの手紙を書いたのが僕だって」
当たり前だ。最初読んだときは同級生からかな?と思っていたから。でもどうして……。
「先に言っておきますけど、ラブレターじゃないですからね」
これには乾いた笑いを出さずにはいられなかった。さすがに僕も男性の恋人は欲しいと思わない。
それに……まだ恋なんてものを知らない。みんなから遅れてるといわれるのが怖いから、あえて秘密にしているけど。

「それより……どうして僕を呼び出したんですか?」
「いえ、とりあえず気持ちを確かめたくて」
……変だ。恋色沙汰には興味のないはずの荒井さんがこんなことを言うなんて。
きっと何か裏があるはずだ。よくはわからないけどそんな気がする。
「いいんですよ、別に警戒しなくても。坂上君をどうこうするなんて気は毛頭ありませんから」
「それなら別に良いんですけどね。それで、用は何ですか?」
「その事ですけど……その前に2,3質問していいですか?」
「構いませんよ」
しっかりと頷く。もう覚悟はできている。

「まずは一つ目。あなたは、自分の気持ちを本当に理解していらっしゃいますか?」

………………返事が出せない。肯定できる要素が無い。いわれてみれば、どこかで自分の本音を隠しているところがあるかもしれない。
「その様子だとイエスではないようですね」
見透かされてる。どうしてわかったんだろう。
「何も驚くことはありませんよ。顔にそう書いてありましたから」
そんな正直に顔に出ていたのか?どうしてそんなに僕の考えが読めるんだよ。

「二つ目。あなたは恋をすることをどう思っていますか?生物学上の意味以外で答えてくださいね」

「つまり子孫を増やす以外で答えろと?」
「ええ。その答えに逃げられたら困りますから」
いきなり何を言い出すんだろう?別にいいけど。しかし難しい質問ばかり言うなぁ、荒井さんは。
でも、考えたらどうして恋しなかったんだろう?単に好きなタイプがいなかったから?
鈍かったから?
それとももっと別な理由?だんだん考えるうちに泥沼にはまりそうだ。
「どうやらまだのようですね」
「何か言いました?」
「なんでもないですよ」
??? つくづく不思議な人だ。本当にただ物静かな人かと思ったら、時々謎めいたこと言うし…。

「最後の質問です。あなたはライバルと、誰が好きな人を射止めるか競っています。
ですが、その好きな人が何らかの理由でいなくなったら……あなたはどうしますか?」

「死んだ…じゃなくて?」
「状況は、お任せしますよ」
任せる?そんな質問、答えられるわけ無いじゃないか。ならこう言おう…。
「探します。例え死んだとしても、生きてると信じ込んで探します」
「そう答えると思いましたよ」
やや苦笑気味に荒井さんはこう呟いた。

ん?でもなんでこんな質問するんだ?質問もなんか荒井さんらしくないような…。
「人間どう考えようと自由ですよ。らしいらしくないなんてあったら、人間ダメになっちゃいますから」

「なっ!?」

だからなんで人が思っていることを見透かしたかのようなことを…
「坂上君、エンパスって知ってますか?」
「確かそれって読心術ですよね?そのような話を、以前日野先輩から聞きましたけど」
「日野さんが……あの話の元は僕なんですよ」

なんだって。
荒井さんがエンパス能力の持ち主なんて……知らなかった。少なくとも七不思議の会ではそんな能力の断片は見せなかったはずだ。
「見せる必要は無かったはずですよ。この能力が、この学校の怪奇現象と関わりあるとは思えませんから」
あ、やっぱり僕の思っていることを読んでる。この能力は本当だったんだ―
「信じていただけました?」
「まだ心が受け付けてませんけどね」
「すぐに馴染む人なんてほぼ少数ですよ。それより本題に入らせてもらいましょう」

本題―その言葉が出た瞬間身体中に緊張が走る。
一体、荒井さんの口からどんな事実が紡がれるんだろうか?

「来学期にスウェーデンの学校に転向するそうですよ、倉田さん」

なんだって!?
「どうしてですか?!せっかく知り合いになれたのにどうして!!」
「何でも親御さんの事情だそうです」
なんて事だ。アジアならいざ知らず、よりによって北欧だなんて……遠すぎる。少なくとも僕の家庭生活を考えたら相当の出費になる。
チャンスは無いわけではないにしろ、暫くは会えないだろう…。
「どうして泣いているんですか?ただの知り合いのはずでしょう?」
あ……。
言われてみてようやく気がついた。頬が塗れている事に。そして冷たい風を感じることに。
おそらく、顔は何も考えられないような感じになっているだろう。

「本当はあなたにライバル宣言をするつもりでしたが辞めました。彼女の意中の人は、全く別の人――新堂さんでしたから」
「やっぱり新堂さんでしたか。ふたりは付き合っていたみたいですし」
「でも、気持ちはしっかりと伝えましたよ。誰かさんと違って」
誰かさん?はて、他に彼女を好きになる人といったら、せいぜい日野先輩か風間さんくらいだと思うけど…。
「ひょっとして、まだ自分の気持ちに嘘をついているんですか?」
「う、嘘なんて僕は…」
「それとも、単に気持ちに気付いてないだけ、ですね」
どういうことだろう?自分の気持ちがわからない人なんているのだろうか?
「おそらく…自分で気がつかなかったんでしょう。いつの間にか彼女に初恋しているって。そうでしょ、坂上君」

このとき、僕の頭の中で何かが走った。形容しがたい何かが。
どうして気が付かなかったんだろう?好きだって気持ちは、普通すぐ気付くのに。
「初恋で、しかもこのようなパターンだったら仕方ないですよ。多分幸せになって欲しかったんですね」
頷くしか、なかった。正しいことだから。
「でも、これからはちゃんと気持ちを確かめて、正直に生きてください。僕が言いたかったのはこのことです。 せっかくのライバルがこんな調子では、イライラしてしまいますから」

荒井さん…。心配かけてごめんなさい。でも今は存分に涙を流させてください。
今のところ傷を癒す方法はこれしか知りませんから。
心配したのか荒井さんの手が肩にかかった。
 
―終劇―
 

− To be continued −
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